オリンピックのように派手に演出され、何万人もの目が見守る中で走ることこそ、祝祭――お祭り騒ぎなのだと思っていたのだが。

 違う。

 祝祭は、自分の体の中から溢れてきて、周囲をその色に染めるのだ。

 この独白を敷衍(ふえん)し、オリンピックはいったい何のため、誰のためのものか、という大きな問いを小説として我々読者に投げかけた作品が、『オリンピックを殺す日』だ。

 本書が第一級の娯楽作品であることは言うまでもない。ただし、他の堂場スポーツ小説群を読み終えたときに感じるカタルシスは、ここにはないかもしれない。それどころか、読者は容易に答えが見つからない問いを投げかけられて、むしろ複雑な思いを抱えてしまうかもしれない。だが、それこそが著者がこの作品に託したかったものであるはずだ。

 容易に見つからないその答えは、本書を読み終えた我々ひとりひとりがこれからスポーツと向き合いながら見いだしていくべきものだ。また、堂場さん自身もきっと、今後の作品でその決着をさらに昇華させてゆくのだろう。

 堂場瞬一という作家は、スポーツと小説に対して誠実な人だな、とつくづく思う。

オリンピックを殺す日(文春文庫 と 24-25)

定価 990円(税込)
文藝春秋
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2024.08.23(金)
文=西村 章(スポーツジャーナリスト)