この記事の連載

 フィリピン・ネグロス島の料理は、砂糖産業で栄えた歴史と多様な文化を反映したもの。スペイン、アメリカ、中国、マレーなどの影響を受けながら、独自の多様性を形成しています。島の北西部に位置するバコロド市周辺には、旅行者も入りやすいレストランが多く、変化に富んだローカルフードを楽しむことができます。


バコロド発祥の「チキンイナサル」

 バロコド発祥といわれる「チキンイナサル」。イナサル=焼くという意味で、要はフィリピン流の焼鳥です。味付けは店によって異なりますが、酢や醤油、鶏油、生姜、にんにく、カラマンシーなどでマリネした肉に、真っ赤なアナトーオイルを塗りながら炭火で焼くのが基本。見た目こそワイルドですが、日本のたれ焼鳥に比べると甘みは控えめで、素材本来の旨みが際立ちます。

 もも、むね、ペタ(ぼんじり)、内臓類など部位別に注文でき、お値段は日本円で1本100~300円ほど。好みでカラマンシー(柑橘の一種)を搾ったり、唐辛子をかじりながら食べます。これに、たっぷりのライスを添えるのがフィリピンスタイル。お米はパラッとした粘り気のないインディカ米です。

 一緒にオーダーした牛すじのスープ「カンシ(Cansi)」は、コラーゲンたっぷり!といった感じの、とろっとした口当たり。この地域で酸味料として使われる果実、バトワン(Batuan)を使うのがポイントだそうで、牛の濃厚な旨みをキュンと引き締めています。これぞ体に染みわたる滋味。

 現地のお客さんは、ほぼ手食。郷に従いマネしてみると(ビニール手袋もある)、フォーク&ナイフよりずっと食べやすいことが分かります。骨際の肉をはがし、ごはんに絡めて食べると最高だということも。ごはんはそのままでもいいのですが、アナトーオイルをかけ、ガーリックチップをふりかけるとこなれた仕上がりに。

 なぜチキンイナサルがバコロドの名物なのか? バコロド市を含むネグロス島は昔から闘鶏が盛んで、開催時は多くの人々が集まり、その場で食事を楽しむのが習わしだそう。そこで気軽に食べられるチキンイナサルが人気を呼び、次第に専門店が増えてきた――というのが通説です。

アイダズ チキン Aida's Chicken

https://www.facebook.com/profile.php?id=100083346697253

2024.07.04(木)
文・写真=伊藤由起
協力=フィリピン政府観光省、shifumy(江藤詩文)
写真協力=Kazuki Kei Kiyosawa