この中篇は、この世に存在しない文豪の作品を“読めてしまう”電子書籍リーダーを手に入れた主人公が大変な目にあうという作品でした。ワープロ、パソコン、携帯電話、スマホと新しいテクノロジーが世に出るたびに、それを作品に取り入れていくキングの貪欲な姿勢が変わっていないことに感心しましたね。

 先日アメリカで刊行された最新短篇集の『You Like It Darker』には、電子書籍の購読サイトのScribdや、キング公式サイトが初出の短篇『ローリー』も含まれていました。これからもそういう試みを続けていくんだろうと思います」

 ちなみに『UR』は現在は文春文庫『マイル81』に収録されているので、Koboでも紙の文庫版でも読むことができる。そして、『ローリー』は無料(!)電子書籍『デビュー50周年記念! スティーヴン・キングを50倍愉しむ本』に収録されており、こちらもKoboでひと足先に読めるのである。

 ……と、さりげなく宣伝しつつ、最後に改めて受賞作への思いを。

「若い読者の方には、今回の受賞作になった『異能機関』をまず読んでみていただければと思います。超能力をそなえた少年少女が監禁されている謎の施設。その施設を動かしている圧倒的な権力とけなげに戦う主人公たちに、あなたはいつしか声援を送るようになっていることでしょう。この作品でキングという著者名が〈おもしろ本の目印〉だとわかったら、あとはキングが50年間に書いて世界じゅうの読者をとりこにしてきた作品群があなたを待っています!」(白石さん)

2024.06.28(金)
文=「本の話」編集部