3月某日、その連絡は唐突にSlackに流れてきた。

「楽天の電子書籍の賞で『異能機関』スティーヴン・キングが大賞を受賞しました」

 ええ、ぼくはその本の担当者ですが……はて、楽天が? 電子書籍の賞を? キングに?

楽天が文学賞をやってるって知ってましたか?

 泣く子も黙る「ホラーの帝王」であり、今年2024年に作家生活50周年を迎えた、世界で最も成功している作家キング。もちろんアメリカでは数限りない賞を受けてはいるが、これほどの大御所に、今、日本で、電子書籍の賞というのはいささか意外な驚きだった。というか、楽天が電子書籍の賞をやっていること自体、ご存知ない方もいるのではないだろうか(不覚にも担当も知りませんでした)。

 だがそれも無理はない。じつはこの楽天Kobo電子書籍Awardは昨年からはじまったばかりの、新しく、野心的な賞なのだ。

 楽天Koboジャパン事業部で、この賞の立ち上げから携わってきた森下知恵さんが教えてくれた。

「電子書籍の売り上げはこの数年大きく伸びていますが、AmazonのKindleが最大手。それに対して、楽天のKoboは認知度がまだまだだと考えています。そこで存在感を示していくにはどうするか。

 電子の売り上げの約9割がコミック作品と言われますが、Koboはコミック専門ではない“総合書店”です。その強みを生かして、本が多すぎて何を読んだらいいのかわからないユーザーにオールジャンルでお勧めしていきたい。そして電子といえばまずKindleを考える著者や編集者の皆さんにもKoboのイメージを持ってもらいたい。

 ひいては、電子書籍から出版界全体をエンパワーしていきたい……そんな思いから、昨年この賞を立ち上げたわけです」(森下さん)

 

 こうしたコンセプトの賞であるため、Kobo賞の受賞部門は多岐にわたっている。なにせコミックが7部門、書籍・写真集が10部門。さらに特別賞まであり、とにかくなるべく多くの作品を顕彰しようという勢いが凄い。キングの『異能機関』はそのなかで「小説(海外編)」部門の大賞を受賞したわけだ。

2024.06.28(金)
文=「本の話」編集部