免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」の開発が評価されて、2018年にノーベル生理学・医学賞を受賞した京都大学特別教授の本庶佑氏は、自由診療の免疫細胞療法について「明確なエビデンスがない医療をビジネスとしてやるのは、明らかに『医の倫理』に反している」と厳しく批判した(「文藝春秋」2020年3月号・筆者インタビュー)。
「免疫細胞療法」以外にも、話題の光免疫療法(レーザー光でがんをピンポイントで治療する)とは似て非なる「自由診療の光免疫療法」、「高濃度ビタミンC点滴」、「オゾン療法」などのエセ医療が、自由診療として堂々と行われている。これらは本物のがん専門医なら、絶対に勧めない治療だ。
たとえ患者自身が冷静でも、家族や友人などがエセ医療を熱心に勧めるケースもある。がん医療の現実を知らない人にとっては、ネットで宣伝されている謳い文句を真に受けて、「なぜこんなに素晴らしい治療を受けないのか?」と思うらしい。患者を助けたいという善意さえも、エセ医療は利用する。
がん治療に関わる真っ当な医師たちは、エセ医療に対して苦々しい思いを抱いているが、自分の患者がエセ医療を希望した時に、強く引き留めはしないだろう。
正しくはできない、と言うべきかもしれない。なぜなら、2014年に施行された「再生医療等の安全性の確保等に関する法律(以下、再生医療等安全法)」で、自由診療の免疫細胞療法が公認されたからだ。当時の安倍政権が、再生医療を成長戦略の一つに掲げて、有効性が確立していない免疫細胞療法を、患者が高額な費用を負担して行うことができるように認めたのである。以来、この法律は世界標準のEBMを無視して、エセ医療を国が公認した“天下の悪法”といわれるようになった。
がん医療の専門家の中には、前出の勝俣範之教授のようにエセ医療に対して警鐘を鳴らす人もいる。こうした医療現場からの指摘を受けて、厚生労働省も重い腰を上げ、医療法を改正して、悪質なエセ医療を抑え込む戦略を計画した。具体的には、患者に誤解を与える表現や誇大広告、そして症例画像を広告に使用することを禁止するなどの方針を打ち出したのだ。
2024.06.08(土)