しかし、同法の改正を議論する有識者会議で、自由診療クリニックの顧問弁護士が「限定解除」という例外規定の追加を要求したことで、骨抜きの法改正となってしまった。

“金のなる木”と言われるエセ医療は規制されるどころか、国のお墨付きまで得て、患者の懐を狙っている。こうした状況だからこそ、私たちは正しいがん医療とエセ医療を見分ける判断力を養う必要があるのだ。

 がんに罹患した著名人が、自由診療のがん治療を選択するケースが後を絶たない。市場原理では、高額なほど質の高い“サービス”が受けられるので、がん医療を同じ感覚で捉えているのだろう。医療とは基本的に社会福祉であり、日本は公的保険制度で誰でも公平に最善の治療が受けられる。しかし、自由診療は基本的にエビデンスなき医療であり、莫大な治療費に見合う効果は無きに等しいのだ。

 命の瀬戸際に追い詰められた患者に向かって、エセ医療を行う医師たちは、どのような言葉で語りかけているのか。効果が証明されていない治療で、高い費用を払わせることに罪悪感は抱いていないのか。その本音を知るために、私は彼らと対峙してきた。同時に、これまで口を閉ざしてきた患者やその家族の声を聞くために、各地を回った。

「あの治療は一体何だったのか、果たして治療と言えるのか。思い出すたびに苦しくなります。私たちと同じような思いを誰にもしてほしくありません」

 エセ医療を選んでしまった患者の遺族は、私の取材に応じた理由をこう述べた。今は亡き患者の方々も、きっと同じ想いを抱いているはずだろう。

 最善の選択をするために、エセ医療という最悪の現実を知ってもらいたい。


「はじめに 患者だけが知らない「エセ医療」の罠」より

がん「エセ医療」の罠(文春新書 1456)

定価 1,210円(税込)
文藝春秋
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2024.06.08(土)