小説『われは熊楠』は、満を持して刊行された。

 最終的な枚数は五百数十枚だが、実際には倍近くの枚数を書いた。書いては直し、書いては直しを繰り返しているうちにそうなってしまったのだ。はたからはずいぶん遠回りに見えるかもしれない。だが、今の私にはわかる。それだけの労力を費やさなければ、この物語を完成させることはできなかった。

 ただ、私はなぜか今でも執筆が終わった気がしない。作者である私のあずかり知らないところで、延々と物語が続いているように思える。それは熊楠という人物に入り込みすぎたせいなのか、あるいは小説という媒体がもつ宿命なのか。

 最後に、この文章を読んでくれたあなたにお願いがある。どうか『われは熊楠』を手に取っていただきたい。そして、この物語を完結させてほしい。読者に読まれない限り、小説が本当の意味で完結することはないのだから。

撮影:深野未季

◆プロフィール
岩井圭也(いわい・けいや)

 一九八七年生まれ。大阪府出身。北海道大学大学院農学院修了。二〇一八年「永遠についての証明」で第九回野性時代フロンティア文学賞を受賞しデビュー。二三年『完全なる白銀』で第三六回山本周五郎賞候補、『最後の鑑定人』で第七六回日本推理作家協会賞候補。『文身』で勝木書店「KaBoSコレクション2024」金賞受賞。現在、『楽園の犬』が第七七回日本推理作家協会賞〈長編および連作短編集部門〉ノミネート中。
 他の著書に『夏の陰』『プリズン・ドクター』『水よ踊れ』『この夜が明ければ』『竜血の山』『生者のポエトリー』『付き添うひと』「横浜ネイバーズ」シリーズなど。二四年五月、最新作『われは熊楠』刊行。

われは熊楠

定価 2,200円(税込)
文藝春秋
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2024.05.31(金)