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3人が考える「俳優にとって大事なこと」

――林監督は、いい俳優の条件って何だと思いますか?

 そうですね……自分の状況をちゃんと受け入れられる人かなあ。それは最低条件のように思いますね。言い訳せずに自分を見つめることは大事ですよね。(オファーが来ないことを)事務所のせいにしたりしているとロクな演技はできないと思うから。

藤原 心当たりがあるから怖いな(笑)。

 きっとそういう時期は誰にもあるんだと思います。でも、そんなことを言っていても仕方がないと途中で気づくわけでしょう? (自分を見つめる作業をし続けてきた)毎熊くんや季節は、チャラチャラした浅い人の役はもうできないと思いますよ。やっても、それだけでは終わらない、何かが映ってしまうんじゃないかな。

――毎熊さんも藤原さんも、セリフのない場面でも魅力的だなと感じます。表情や佇まいから観客はいろんなものを感じ取ることができますよね?

 そうなんです。やっぱりそういうものを感じさせる役者さんに惹かれるし、撮りたくなりますね。

――藤原さん、毎熊さんは、俳優にとって大事なことは何だと思いますか?

藤原 (しばらく考えて)純粋なままでいられるかどうかじゃないですか? 毎熊さんも僕も映画少年だったんですよ。毎熊さんは確か『E.T.』が好きだったんですよね?

毎熊 映画に興味を持つきっかけになったのが『E.T.』だったかな。

藤原 僕は子供の頃、ジャッキー・チェンが好きでした。映画好きであることは当時も今も変わってなくて。表現することに対して、純粋な気持ちを失わない。そのために何を信じて、何を守れるかが大事なのではないかなと思います。

――でも、俳優さんって、作品や役柄によっては精神的にもボロボロになる、魂を削る大変なお仕事ですよね?

藤原 そうですね。ただ、映画を観にきてくださる方も、みなさん身を削っておられると思います。どの世界に生きていても大変だし、現実世界の方が風当たりは強いかもしれない。僕たちが物語の中で心が傷だらけになるというのも、現実にそれに近いことが起きていて、その状況をお借りしてやらせてもらっているだけなので、たいしたことないですよ!

 (藤原に)その答えは、いつから考えていたの?

藤原 いつからって、事前に質問とかいただいてないですよ(笑)。

毎熊 本当に季節の言う通りだと思います。いろいろなことが起きるので、(俳優は)迷子になりやすい仕事でもあると思います。仕事がない時はもっと仕事をしたいと思うでしょうし、忙しすぎるとなんのためにやっているのかわからなくなりそうになる。アンバランスな中でどう重心を取るのかが大事なのかなと。目先のことに囚われちゃうと転げ落ちそうになるので。

藤原 確かに。

毎熊 僕だったら、映画を作りたいとか、『東京ランドマーク』のようなタイプの作品もやりたいとか、自分は何が好きで、何のためにやってきたのかを忘れなければ、転んだとしてもまたすぐに戻ってこられるのかなと思います。そうしたら、失敗も怖くなくなりますし。

――これからプロデュース業もやっていくのですか?

毎熊 それはまだわからないですけど、俳優は基本的に(オファーを)待つ仕事だと思うんですね。なので、10のうち2くらいは、自分から動き出すものがあってもいいのかなと考えています。

 季節は、自分で企画・構成する朗読のイベントをずっとやり続けていて、どんどんお客さんを増やしている。すごいなと尊敬しています。僕も40〜50代にかけては、自発的に動いて形に残すということをやっていけたらと思いますね。

藤原 毎熊さんがプロデュースして、僕が主演をやるとか? 名作『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のマット・デイモンとケイシー・アフレックみたいに(笑)。

毎熊 季節が企画するものに僕を呼んでもらっても?

藤原 いいかもしれない。夢のある話ですね!

藤原季節(ふじわら・きせつ)

1993年生まれ、北海道出身。俳優。小劇場での活動を経て2013年より俳優としてのキャリアをスタート。翌年の映画『人狼ゲーム ビーストサイド』を皮切りに、『ケンとカズ』(16年)『全員死刑』(17年)『止められるか、俺たちを』(18年)などに出演。2020年には、主演を務めた『佐々木、イン、マイマイン』がスマッシュヒットを記録し、『his』(20年)とあわせて同年の第42回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。翌年には第13回TAMA映画賞最優秀新進男優賞を受賞するなど、デビュー以降、映画のみならずドラマ、舞台など幅広く活動を続けている。映画『辰巳』が現在公開中。著書に『めぐるきせつ』(ワニブックス)。

毎熊克哉(まいぐま・かつや)

1987年生まれ、広島県出身。俳優。主演を務めた2016年公開の映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールのスポニチグランプリ新人賞、おおさかシネマフェスティバル2017の新人男優賞、第31回高崎映画祭の最優秀新進男優賞を受賞。最近の主な出演映画に『愛なのに』『猫は逃げた』『冬薔薇』『妖怪シェアハウス─白馬の王子様じゃないん怪─』『ビリーバーズ』(全て22年)、『そして僕は途方に暮れる』『世界の終わりから』(23年)、ドラマに大河ドラマ『光る君へ』(24年 NHK)など。現在『好きなオトコと別れたい』(テレビ東京)に出演中。

林 知亜季(はやし・ともあき)

1984年生まれ、神奈川県出身。映画監督。高校時代の3年間、アメリカのニューヨーク州で過ごす。帰国後、演劇のワークショップに参加。知り合った仲間とEngawa Films Projectを立ち上げ、映像制作を始める。Engawa Films Projectの撮影、監督を主に担当。2012年、短編映画『VOEL』がショートショート フィルムフェスティバルに入選する。15年にはパリで1年間ドキュメンタリーやファッションPVなどを制作。『東京ランドマーク』は、初の長編映画となる。

『東京ランドマーク』

店長のつまらない会話をやり過ごしながら、コンビニでアルバイトをしている稔(藤原季節)。一人暮らしの稔の部屋には、実家暮らしで働いていない友人のタケ(義山真司)がよく遊びに来ては、所在ない時間を共に過ごしていた。ある日、ひょんなことから家出少女・桜子(鈴木セイナ)が稔の部屋に転がり込んできた。家に返そうとしても桜子はなかなか帰らない。そこで、稔はある突拍子もない作戦を思いつく。

監督・脚本:林 知亜季

出演:藤原季節、鈴木セイナ、義山真司、浅沼ファティ、石原滉也、巽よしこ、西尻幸嗣、幸田尚子、大西信満

配給:Engawa Films Project
ⒸEngawa Films Project 2024
2024年5月18日(土)よりK'sシネマ(新宿)、7月6日(土)より第七藝術劇場(大阪)、シネマスコーレ(名古屋)にて公開
https://sites.google.com/view/tokyolandmark/home

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2024.05.24(金)
文=黒瀬朋子
撮影=平松市聖