「自分の居場所はあるのだろうか」って、誰しもどこかに抱えている感覚じゃないかなと
林 実は去年、テアトル新宿で上映したバージョンから、ほんの少し編集を変えています。普段はそういうことはしませんが、自分では見えていなかったものを客観的視点から毎熊くんは見ている。多くのお客さんに観てもらうことを考えてくれている。それなら、言うことを聞いてみようかなと。
――説明的な部分が削ぎ落とされて、場面と場面の間にあったであろう出来事や、言葉にならない感情を観客が自由に想像できる余白があります。2回拝見しましたが、1回目は稔とタケの優しい関係が見えるバイクのシーン、2回目は歩道橋でのミノルの電話の後の笑顔にグッときました。
林 2回目がいいとよく言われますね。
毎熊 2回目がいいのは、(1回観ているので受け取る)情報が少ないからですね。70分の最小限の映像で表現しています。どこに焦点を当てて観るかで、きっと受け取り方も変わる。映画館で観るべき、映画らしい映画だと思います。
藤原 プロデューサーの視点ですね!
林 上映するからには、長い期間、観ていただける息の長い映画になっていったらいいなと思いますね。ちなみに、チラシの表にある「ここに居場所はあるのだろうか」というコピーは毎熊くんが考えたんですよ。
藤原 そうだったんですか? あまりにハマりすぎてビビりました。俺のことじゃんって(笑)。
毎熊 季節のことを昔からよく知っているから、この所在ない表情のアップを使うならこの言葉だ! と思いました。(藤原が)自分のことを認めてあげられない、居場所がないと感じていることを知っていましたし、僕自身もそう感じたことはありました。
藤原 「自分の居場所はあるのだろうか」って、誰しもどこかに抱えている感覚じゃないかなと思います。僕はずっと自分のことを根無し草のように感じていて、今でもそう思うことがあります。でも、見渡したら10年前に知り合った林さんや毎熊さんたちがまだ隣にいてくれた。僕の居場所はすでにあって、それに気づくのに10年という年月が必要だったんだなと改めて思いました。
藤原 映画の中で稔とタケと桜子が共有する強烈な時間は、一生の宝物になります。孤独を抱える人が映画館で『東京ランドマーク』を観て、ふと共感してくれる瞬間があったら嬉しい。Engawa Films Projectの人たちが作ってくれた「映画」という居場所をお客さんと共有できたら、そして友達のように感じてもらえたらいいなあと思っています。
2024.05.24(金)
文=黒瀬朋子
撮影=平松市聖