だけど真田さんは、どんな小さな役、どんな役割のスタッフであろうが、等身大で対応するから、みんな萎縮しないんですよね。
奥野 役者としてはもちろんなのですが、それだけじゃなくて、もうとにかく全てがすごいですよね。
現場に入る前に田中泯さん(※映画『たそがれ清兵衛』で真田と共演)に「真田さんってどういう人でした?」ってリサーチしたりしたのですが、いざ対峙すると「あれは自分にはできねえ。自分とはほど遠い人だ!」と、力の差をまざまざと見せつけられました。
時代考証も所作も何でも知っている
洞口 みんな何か質問があると真っ先に真田さんのところに行っていましたよね。「真田さん聞いてください」「どうした?」みたいな感じで、あちこちで立ち話している(笑)。
奥野 だって、何でも知ってるんですよ。時代考証にしても、当時の所作にしても、本当に造詣が深いので、何を聞いても答えてくれて。些細な事でも逐一、兄上に教えを乞うてました(笑)。
戸田広松(※虎永の腹心)に僕が手紙を投げるシーンは、どうやって投げると不自然ではないのか…。そうしたら、真田さんはカメラ位置を全て把握していて、「この角度で投げた方がいいから、俺がカメラから見えないようにして広松に投げる」って。
洞口 奥野くんじゃなくて、真田さんが投げたの?
奥野 そうなんですよ! しかも直前になったら「やばい、俺が緊張してきた。できるかな、できるかな」っておっしゃっていて。
あれだけのキャリアがあるのに、カメラに映らないシーンでも、あんなに緊張感を持って撮影に臨んでいるというのが、本当にすごいと思って。
洞口 わかります。すごく謙虚な方ですよね。
連歌のシーンで、私が脚本を見て「ちょっと下の句が…」とか、疑問を投げかけたら、「勉強いたします!」っておっしゃったんですよ。どんなに熟練者であっても、「勉強します」と素直に答えられる真摯な姿勢に衿を正されます。
2024.05.09(木)
文=林田順子