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
日本でも耳にする機会が多いケアンズ。もっとも日本から近く、時差はわずか1時間。海には世界遺産でもあるグレート・バリアリーフ、陸には熱帯雨林の森を有し、ケアンズ自体はどこか懐かしい小さな街。
オーストラリアの魅力を凝縮したかのような愛すべき旅ができそうだ。

最古の森を歩き、知る。先住民に受け継がれる物語

深い森や白砂のビーチは世界のあちこちで旅する人を魅了する。しかし、なぜ、なかでもオーストラリアの自然に人は惹きつけられるのだろう。

ケアンズの街からすぐの場所に広がる熱帯雨林は“世界最古の森”だ。その歴史の長さといったら、恐竜が森を闊歩していたころと変わらず、当時の生き残りのような植生の植物や爬虫類にも出くわすことができるというから驚きだ。

もちろん、歴史の長さは訪れる人を惹きつけるのに十分だけれど、同時に、何万年もの間、先住民アボリジナルピープルの人々によって守られてきた神聖な場所であることも意識しておきたい。

アボリジナルの人々は、大地、木々、動物たち……すべてのものにスピリットが宿ると言う。“最古の森”は人間にもその他の生き物にも十分な食べ物を与え、人間はそれをわきまえて振る舞い、獲りすぎることはしない。

たとえば、植物の種を運んでくれる鳥類のために彼らの餌をすっかり食べ尽くしてしまうようなことは決してしないのだ。

アボリジナルの人々に導かれる“ドリームタイム”を

アボリジナルの人々は文字を持たず、書物によって文化や歴史を伝えるのではなく、部族の中で“ドリームタイム”、つまり寝物語のように語り継いできた。

「モスマン・ゴージ・カルチュラル・センター」は、アボリジナルのクク・ヤランジ族の“ドリームタイム”を体験できる貴重なツアーを行っている。ここでは、ただ観光客にアボリジナルの文化を見せるだけではなく、一緒に森や浜辺を歩き、物語を聞かせてくれる。森には実際にカソワリー(ヒクイドリ)や最古の爬虫類ボイドモリドラゴンが姿を現し、とてもドラマティックだ。時にガイドは何も語らず、そのとき参観者は耳を澄まし、太古の森にいることを深く体感する。その時間はとても神秘的で、「あなたにもスピリットの声が聞こえるかもしれない」とガイドは囁いた。

この森はクク・ヤランジ族の居住区でもあり、社会的にも意義のある場所だ。その収益から環境保全を行っているだけでなく、部族のための学校もあり、カルチャーの火を消さないよう伝統を繫ぐカルチュラル・センターでもある。

痛ましいことに、このエリアでは2023年の年末に今までにない規模の洪水が発生し、現在もあちこちで補修をしている様子が見られる。モスマン渓谷も大量の砂が流れてきて、清らかな渓流が随分浅くなったそうだ。

「それでも不思議と“神聖なる場所”は無事だった」とガイド。この美しいパワーに満ちた場所に入れてもらえ、ドリームタイムを過ごせる幸福。特別な時間を感じてみてほしい。

アボリジナルの文化を受け継ぎ伝えるための交流施設
◆Mossman Gorge Cultural Centre(モスマン・ゴージ・カルチュラル・センター)

デインツリー国立公園にあり、古くからここで生活してきたクク・ヤランジ族の生活を伝える文化センター。
「ドリームタイムウォーク」の受付もここで行う。保護費をまかなうほか、部族のための学校なども運営し、まさに文化を伝えるための場所だ。
Mossman Gorge Cultural Centre(モスマン・ゴージ・カルチュラル・センター)
所在地 212r Mossman Gorge Road, Mossman Gorge
電話番号 0740997000
開館時間 8:00~18:00
定休日 無休
入館料 ドリームタイム・ウォーク 90ドル~
https://www.mossmangorge.com.au/
2024.05.13(月)
文=北條芽以
撮影=橋本 篤
現地協力=ポートダグラスコネクションズ
協力=ケアンズ観光局
CREA Traveller 2024 vol.2
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。