花田 私は、そのシーンを読み終えて、すぐには現実に戻って来られないような衝撃を受けました。戦争の悲惨さを重みをもって感じさせるラストであると同時に、2人の人生に思いを馳せる結末にもなっている。圧倒される読後感でした。

『光のとこにいてね』一穂ミチ 

 ――小学年の果遠(かのん)と結珠(ゆず)は、団地の公園で偶然出会います。互いに特別な思いを抱く2人は、ある事件をきっかけに離れ離れとなりますが、時は流れ、一貫校の中学からエスカレーター式に女子高へ進学した結珠の目の前に現れたのは、他でもない果遠で――。

 山本 一推しの作品です。この選考会に初回から参加する中で、「大人の恋愛小説とは何か?」とずっと考えています。当店で開催された紗倉まなさん『ごっこ』(講談社)のトークイベントで、紗倉さんに伺ってみたら、「大人になればなるほど、純粋な物語を求めるのではないか」と答えてくださった。僕はこの答えにすごく納得しました。大人の恋愛小説とは、あらゆる経験をしてなお、あるいはその時期を通過したからこそ、恋愛のような純粋なものを求める人たちに届く作品のことなのだと思ったんです。だから、体験したことのない恋愛関係が描かれていても、どこかでこの感情は分かるなと思わせてくれる、『光のとこにいてね』を推します。

 川俣 まさにその通りの感覚を覚えました。純粋にずっと幸せでいてほしいと願う相手が、たとえ自分にいなくとも、そう思う気持ちはすごくよく分かる。果遠と結珠の両方に共感できますし、ぐいぐい入り込んでしまう作品でした。

 山本 あなたが目の前に、光のところにいれば私は幸せ、というまっすぐな気持ちを、少女から大人へ成長していく主人公たちを通してずっと書くのは、一穂さんさすがだなと思いました。高頭さんが先ほど『楊花の歌』に関しておっしゃっていたように、2人の関係性はまさに“ねちねちと”書かれている。あなたを一番知っているのは私だという、恋愛において一番大事な思いが描かれていて、本当に大好きな一冊です。

2024.03.28(木)