高頭 刊行されて一年ほど経っているので、様々な感想を耳にして、分からない人には分からない小説なんだと思っていたんです。何故そこまで相手に執着するのかピンとこない、という意見がありました。でも、子供から高校生にかけての時期の、友情でも恋愛でもなく、誰かのことがすごく大切だと思う気持ちに、私自身すごく覚えがあるんです。その相手が幸せでいるためには自分が不利な立場に立たされたり、まっすぐ歩いて行けなくても構わないとさえ思う。相手が目の前にいなくても、その人で心が占拠される。そういう感覚を恋と呼ぶならば、それでもいいと思います。果遠と結珠の夫がいい人過ぎるので気の毒なのですが、とにかく相手が一番大事であることに理由はないことにも、説得力があると私は思いました。

 花田 夫の話が出ましたが、2人以外の登場人物たちの描写が薄すぎるのが気になりました。Botのような、都合よく動いてくれるだけの存在に見えてしまう。2人の母親の存在も、のっぺりとした悪に見えました。この小説は、彼女たちの母との葛藤の物語でもあると思うんです。だから終盤で母になった果遠が下す決断については、もう少し彼女の思いが描かれるべきだと感じました。そういう点でも、大人の物語ではなく、世界の中心は自分だと信じて疑わない、もう少し若い人のための小説かなと思いました。

 加藤 母親の存在については私も同感です。「あなたがその選択をしたら、同じことの繰り返しではないのか?」と感じて。その視点から読むと、ラストがあまりにも悲しい。2人の濃い友情と恋愛は強く感じるものの、残された人たちを思うと、私としては悲しすぎました。

 花田 何も言わずに相手を置いて出て行く態度も、物語としては素敵なものなのかもしれませんが、もう少し誠実でもよいとも思います。誰かを置き去りにすることなく、2人は一緒に暮らせたかもしれない。結婚や子育てと、彼女たちの間にある特別な思いは、両立が叶うように見えました。だからこそ、終盤で少し心が離れてしまった部分がありました。

2024.03.28(木)