山本 お客さまへのリーチの仕方が、今回の候補作はそれぞれ全く違いますよね。男性にと限るなら、僕は『楊花の歌』をすすめるかもしれないです。やはり男性の方がロマンチックさを求めていると思うので。
加藤 『楊花の歌』はストーリーが楽しいですし、戦時下の設定も、男性のお客さまが興味を持つポイントと思います。
川俣 賞に合うと思うのは『今日の花を摘む』なのですが、恋愛小説に感情移入を求める私みたいなタイプの読み手には、向いていないですよね。離れた立場から、「この人の恋愛、面白い」って楽しむにはいいと思うのですが……。
高頭 22時45分からNHKで放送してる夜ドラみたいな感じですかね? 爪切りながら見て、「今めっちゃ面白いドラマやってるから、見てみてよ」って友達に勧めたくなるような。
花田 愉里子が自立していることは大きいですよね。「花摘み」も誰かに依存するためではなく、自分が幸せになるための行為ですから。だからこそ、安心して読める部分はあると思います。
加藤 会社で隣の席の人とか、電車でたまたま乗り合わせた人とか、もしかしたら愉里子のような楽しみを持っているかもしれない、と感じたんです。感情移入はできなくても、リアルさがある。
高頭 愉里子が友達にいたら面白いですよね。酸いも甘いも噛み分けた人から「実は私『花摘み』という趣味が……」と告白されたら、「え、そうなんだ、やるじゃん」と答えるはず。ひと昔前だったら「自分を大事にして」と言ってしまいそうですが……大人が趣味として楽しむ「花摘み」。ありだな、面白いなと思えてきます。
山本 男性のお客さまだと、どうでしょうか? 『今日の花を摘む』には、性的機能が減退する話も出て来るし、辛辣な言われ方もされていますが、僕としては、男性こそ、この本を読んで勉強してもらいたい気持ちもあります。
花田 店頭で「おすすめの恋愛小説は?」と聞かれたら、なかなか『今日の花を摘む』とは答えにくいかもしれません。でも、読む人を選ぶけれど、面白い人にはめちゃくちゃ面白い、合わない人にはまったく合わない、というのも、いい作品であることの証左かもしれません。
2024.03.28(木)