花田 会社の事情やセクハラ問題って、恋愛小説という点から考えると、脇道に逸れたところでもありますよね。でも全然もたつかない。それは、高頭さんがおっしゃっていたようにサブキャラ達が非常に丁寧に描かれているからだと思うんです。部下の松岡(まつおか)や池田(いけだ)なんて、モデルがいるのでは? と思えるほどリアルに書き込まれています。登場人物が多くても、誰が誰だったかわからない……という状態になりません。エンターテインメント作品らしく、みんなが自分らしくいられる道を見つけていくラストは、とても幸せな気持ちになりますし、ビターな部分も含め、大人の恋愛を味わえる一冊でした。

気になる最終投票の行方は……

 ――みなさん、かなり心が揺れているように思いますが、いかがでしょうか。

 山本 変わらず『光のとこにいてね』推しです。すでに話題になって広く読まれている作品ではありますが、男性や大人の層とか、もっとリーチできる可能性を秘めていると思う。『今日の花を摘む』はどんな人にも共感できるところがあるはずですが、一穂さんの作風や物語性、恋愛性をもっと幅広く多くの人に読んでもらいたいです。

 花田 私は『楊花の歌』ですね。心に深い感動が残りますし、読んでいてワーッと気持ちが盛り上がって、「いいじゃん! いけいけ」と入り込める作品です。それでいて、ラストは静謐(せいひつ)。深い感動のある作品こそが良い作品というわけではありませんが、この没入感は素晴らしいと思います。

 高頭 それぞれに良さがあるので、「あとはお好みで」と言いたいです(笑)。『光のとこにいてね』は大好きな小説ですが、花田さんが「大人の物語ではない」とおっしゃっていたのに頷ける部分もありました。『今日の花を摘む』は、感動で滂沱の涙が、とか、切なさで胸が締め付けられる、みたいな作品ではないですよね。お客さまに「大人の恋愛小説が読みたいんだけど」と聞かれてもしこの本をお勧めしたら、驚かれてしまうかもしれません。

2024.03.28(木)