三島有紀子監督が自ら脚本を書いた『一月の声に歓びを刻め』が2024年2月9日から公開中。監督が47年間封印していた、自らが受けた性暴力を見つめ直し、それをモチーフとして作り上げた作品だ。

 作品の舞台裏や演技論、これまでのキャリアなどについて、主人公を演じた前田敦子さんと語った対談を掲載する(初出:『週刊文春WOMAN創刊5周年記念号』)。

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引き受けるか、一ヶ月悩んだ

三島 物語の第1章の「マキ」をカルーセル麻紀さん、第2章の「誠」を哀川翔さん、そして第3章の「れいこ」を前田敦子さんにお願いしました。引き受けるかどうか、すごく迷われたのではないでしょうか。

前田 はい。私は2021年からフリーランスで仕事をしているので、オファーをいただくと自分でよく考えてお受けするかどうかを決めています。

 特に今回は、いただいた脚本の1ページ目に、監督が6歳のときに起きた忌まわしい出来事から、監督にとって映画を撮るというのはどういうことなのか、なぜ今この映画を撮ろうとしているのかということまで、手書きで書いてくださってあったのを読んで、これは大変重い内容の作品だ、今の自分にできるのだろうかと、考えに考え抜きました。

 三島監督は6歳のときの忌まわしい出来事について、手紙にしたためている(誰に宛てたかは明かしていない)。

「そのとき、作業着姿の見知らぬ男に道を聞かれ、そのまま口を抑えられて、駐車場にひきずりこまれ、性的ないたずらを受けました」(『映画芸術』2019年Autumnに掲載。原文ママ)

前田 しかも、単に内容が重いというだけではありません。監督にとってこの映画はいつかは撮らなければならないと思っていたという大切な作品であって、私はそんな監督のご期待に応えられるだろうかと1ヶ月ぐらい悩みました。

三島 自分の体験をモチーフに、新たな人物の別の物語として再構築していて、“その後の人生”を描いていますので、直接的な描写もありません。それでも、やはり大変な役です。とにかく今を生きる方々に「生きてほしい」という強い思いで制作を決めたので、お引き受けいただき本当にありがとうございました。

2024.02.21(水)
文=こみねあつこ