前田 そんな裏話があったんですね、初めて聞きました。うれしい!

三島 映画館のポレポレのカフェで脚本を執筆中に偶然、奇妙礼太郎さんが歌うこの曲が流れるのを聴いて、劇中歌として使わせてもらったんですが、「誰かの前で種明かす日が来るよ」とか「気になる人に花を贈ればいいよ」とか、れいこが前を向いて歩き出せそうな、いい歌詞ですよね。

前田 素晴らしい偶然があったんですね。

三島 この映画が生まれたのもある偶然からで、『IMPERIAL大阪堂島出入橋』という短編のロケハンの際、6歳のあの日以来一度も行ったことがなかった犯行現場の駐車場をたまたま目にしてしまった。思わず「あっ!」と声に出すと、一緒にいたプロデューサーに「どうしましたん?」と言われました。

「あそこが現場や」と、私は自然に事件の一部始終を話していた。今ならこのテーマに向かい合えるかもしれないと思い、脚本を書き始めました。

 

「前田さんは何かと交信できる人」監督が見た前田敦子

前田 れいこがレンタル彼氏のトトに、何があったかを話すシーンは、実際にその駐車場で撮影されました。撮影前に、監督と2人でお話しする中で、ここでこういうことがあった、あそこでこう思ったということを細かく教えてくれました。

三島 そのとき前田さんが一度、ハグしてくれたんですよね。そして手を繋いで、600mぐらい歩きながらずっと話していた。私も後日スタッフに言われて、思い出したのですが、無意識にそうしていたんでしょう。

前田 私も不思議と手を繋いでいたことは覚えていないんです。あの場所で、監督の顔を見ただけでもうすべてが伝わってくるようだったことははっきり覚えています。2人でコソコソ喋っていましたね(笑)。監督は淡々と状況を説明してくれて、れいこに落とし込む作業を一緒にやってもらっていたんだと思います。

三島 私は演出をするとき、役者さんに演技をつけるのではなく、大阪の街の道を歩いていて横を自転車のおっちゃんが通ったり、風が吹いたりする、相手役に生まれた感情、そのすべてを感じていただいて、そのすべてのこととセッションしていただきたいんです。その感情の流れを、我々は繊細に寄り添って、つぶさに撮っていこうと決めていました。

2024.02.21(水)
文=こみねあつこ