前田 まるでドキュメンタリーを撮られているようでした。

三島 だから前田さんをよく観察していたようなものなんですが、前田さんは「思考するシャーマン」ですね。普段からずっと思考を続けている人です。なおかつシャーマンであるというのは、つまり神様なのか、突き動かされる何かの力なのか、とにかく何かと交信できる人です(笑)。

前田 え~っ(笑)。シャーマンの自覚はありませんが、確かによく考えてはいます。わかってくださっているなあ。

 私は本当に過去のことを覚えていないんです。AKB48として14歳でデビューしてから、すごく感動したことはそのポイントごとに覚えている気はするんですが、細かい感情は覚えていない。だから過去の話がぜんぜんできないので、「あのとき、こうだったよね」と言われても、「ああそうなんだ」としか返せません。思い出が少ないタイプなんです。

三島 思い出が少ないタイプ! その言葉のチョイスが面白い(笑)。

前田 その場その場で考えていることがいっぱいあるので、新しいことを考えるために、過去のことをどんどんしまっているのか、なくしているのか……。

三島 捨てているんですね。今を生きている。

前田 そうですね。たどり着くところはすごく幸せな気がする。今が幸せだということで(笑)。

 

「役者は向いていないんじゃないか」と思っていた

三島 演技をする時に、例えば2つのアプローチがあると言われてます。1つは、自分の過去の感情を掘り起こして自分を見つめることから始めるタイプで、もう1つは、想像でその感情を生むタイプです。

 自分の今までの人生と関係なく、生きてきた年齢も関係なく、とにかく役の人間を想像する。それで想像したときにどういう感情が自分の中に生まれるのかを見つめていく。

 私はどちらかと言うと後者のアプローチのほうが表現の可能性が広がると思っています。というのも、たとえば悲しい場面で自分の過去の悲しい経験を思い出しても、それは別の悲しみですからね。

2024.02.21(水)
文=こみねあつこ