「上代裂」
佐保の姪、佐々木玲美が弁護士を紹介してほしいと頼んできた。悪徳ホストに騙されて多額の借金を背負わされ、このままでは風俗に売り飛ばされそうだという。
聞けばそのホスト、美術販売経験があるという。デート商法的に版画を売りつける、バブル期に問題になった「アイドル版画」を売っていたことがあるらしい。
佐保は一計を案じ、上代裂(法隆寺と東大寺正倉院の、二つの寺に残った裂のこと)を利用しての報復劇を思い付くが……。
六篇のうち、唯一若い女子たちが登場し、活躍する。女子たちの堂々とした態度には、同じ女性として胸がすく思いがしたし、若者たちが主役ということで疾走感ある読み味が心地良い。
また、佐保が久しぶりに会った姪に「玲美はいくつになった」と尋ねた時の玲美の返答が、実に世慣れていてカッコいい。
「おじちゃん、女の齢と男の行き先は訊いたらあかんねんで」
まいりました。私が男だったら惚れてしまうだろう。
「ヒタチヤ ロイヤル」
衣料雑貨卸販売業を営む箕輪が、「アートワース」の記事から「ハワイオアフ島でヴィンテージアロハ 500枚見つかる」というニュースを見つける。箕輪は資金繰りに行き詰まっており、既に闇金にまで手を出して、その上有名ブランドの偽造品、販売卸を行っている事実関係を押さえられ、違法行為差し止めの通告書まで突きつけられている。まるで目隠しをして断崖絶壁を歩いているような、八方ふさがりの状況である。
背に腹はかえられぬ。箕輪は一着二万五千でヴィンテージアロハの偽造品を仕立てて、二七万で売り捌(さば)く、という一攫千金の詐欺を目論む。
そもそもアロハシャツがこんなに高騰している現状にも驚いたが、偽造品作成の工程が綿密に書き込まれており、なるほど、こうやって偽造アロハが市場に出回るのかと、目から鱗(うろこ)が落ちまくる。犯罪行為という意識など微塵(みじん)もなく、目の前の金に群がる共犯者たち。そのチームプレーも、ここまで来るとお見事、とうっかり賞賛してしまいそうになるが、果たして結末はいかに。
2024.01.01(月)
文=山村 祥(SYOサロン代表、画家)