『台湾のアイデンティティ』(家永 真幸)
『台湾のアイデンティティ』(家永 真幸)

 台湾への親近感は、近年の日本において、かつてなく高まっている。筆者の勤務する大学で、初めて台湾について学ぶ学生さんたちを相手に「台湾のイメージ」を聞くと、おしなべてポジティブな答えが返ってくる。観光地や食べ物の魅力、同性婚を合法化(二〇一九年)した開明性などに加えて、「台湾は親日的」というのもよく挙がるキーワードである。

 このような雰囲気は、おそらく筆者の教室に限定されるものではない。中央調査社が実施する世論調査「台湾に対する意識調査」の報告書(二〇二一年一二月)によれば、日本人で台湾に「親しみを感じる」と答える人の割合は実に75.9%にのぼる。その理由の第一位は「台湾人が親切、友好的」(77.1%)であり、第二位は「歴史的に交流が長い」(45.7%)、第三位は「経済的な結びつきが強い」(34.9%)と続く。

 ある程度の年齢の方ならば、二〇一一年三月一一日に東日本大震災が発生した折、台湾から二〇〇億円もの義援金が寄せられたことも印象に残っているだろう。この世論調査では、台湾に親しみを感じる理由の第四位が「東日本大震災時に支援を行ったから」(34.4%)となっている。

 一八年から一九年頃にかけては、日本でタピオカミルクティーが大ブームとなった。今では一時期ほど店舗を見かけなくなったが、それに代わって最近は「台湾カステラ」や「台湾フライドチキン」といった商品を目にすることが増えているように思う。さらには、日本発祥の、「名古屋めし」の一種とされる「台湾ラーメン」や「台湾まぜそば」といった食べ物がコンビニの棚にまで進出しており、もはや日本社会の台湾愛は止まらない状態にある。

 日本社会の台湾への関心は、食べ物だけにとどまらない。二〇年前半に新型コロナウイルス感染症が世界的に急拡大した局面では、政府が市民の行動を制限する強権を発動しながらも、丁寧に説明責任を果たすという台湾の防疫政策が、日本のメディアでも高く評価された。デジタル担当の政務委員(無任所大臣)だったオードリー・タン(唐鳳、一九八一 -)がマスク供給システムを迅速に構築したことも、大いに報じられた。

2023.12.15(金)