このほか、日本の高校生の海外修学旅行・海外研修先は、台湾が一四年度にオーストラリアを抜いて一位となった。近年は新型コロナウイルス感染症の影響で停滞状態にあったとはいえ、一九年度の時点で、その規模は四六九校、五万六〇〇〇人に達していた(全国修学旅行研究協会「2019(平成31・令和元)年度全国公私立高等学校海外修学旅行・海外研修(修学旅行外)実施状況調査報告」)。二二年には、京都橘高校吹奏楽部が招待を受けて台湾を訪問し、中華民国の双十国慶節(建国記念日)にあたる一〇月一〇日、祝賀式典にて演奏を行い話題となった。

 このように、日本と台湾の間では、とりわけ若い世代で、人と人との血の通った交流が大きく拡大している。これは心から歓迎すべきことである。

台湾の親日は「反中の裏返し」ではない

 一方、中国はとんでもない国である。その中国と、台湾は対立している。だから、日本は台湾との関係を大事にして、中国に対抗しなければいけない。今の日本社会には、このような観点から台湾への関心を高めている側面はないだろうか。

 たしかに、近年の台湾政府は「中国に併呑されないこと」を重要な政治課題としている。台湾の有権者も、そのような政府の姿勢を強く支持しているように見える。筆者は一九年一二月、世界がコロナの拡大で長い混乱に突入する直前の時期、ちょうど翌月に控えた台湾総統選挙の選挙戦を現地で見物する機会を得た。この選挙において、民主進歩党(以下、民進党)の蔡英文(一九五六 -)候補の陣営は、台湾から中国の影響力をいかに排除するかという論点を前面に押し出し、有権者に支持を訴えていた。結果的に蔡はこの選挙に圧勝して再選され、二四年五月までの四年間の任期を獲得するので、その訴えは民意に支持されたと言ってよいだろう。

 しかし、「中国の敵」という側面にばかり注目して台湾を評価しようとすると、おそらく台湾イメージは大きく歪んでしまう。前述の二〇年一月の選挙で蔡英文は得票率57%にあたる八二〇万票を獲得しているが、次点で敗れた中国国民党(以下、国民党)の韓国瑜(一九五七 - )候補も得票率38%の五五〇万票を獲得している。国民党は今でこそ対中融和政策を掲げる政党なので、その意味で「親中派」が負けたことには違いない。しかし、同党は中国大陸の中国共産党とかつて内戦を戦ってきた「反共」政党でもある。台湾の有権者が国民党に投じた五五〇万票が、いずれも共産党を支持する意味で投じられたとは考えにくい。

2023.12.15(金)