ヨシタケ 嬉しいなあ……。
上白石 それくらい、日常のちょっとした局面でヨシタケさんの言葉や絵が浮かんでクスッてなったり。「あ、いまだ!」というヨシタケさんの登場場面が、私の生活にはたくさんあります。
ヨシタケ すごくちゃんと読んでくださって。
上白石 ちゃんと読んでます! 『日々臆測』(光村図書、2022年)も大好きです。ヨシタケさんの日々の臆測が冴え渡る……。読んでいると、結局、自分の思考次第で日常はいくらでも面白くできるし、「いい子ちゃん」じゃなく、自分のまんまで、自分の考えたいようにやっていいんだと思わせてくれる感じが、大好きなんです。
美談で救われない1割5分
ヨシタケ 僕自身がやっぱりすごく、ひねくれ者というか、あまのじゃくというか。いわゆる「美談」に感動できないタイプで……。
上白石 「全米が泣いた」が嫌いなタイプ。
ヨシタケ もう、「ケッ」てなっちゃう。ハハハッ。
上白石 ハハハハッ。私も実は、そっちなんです。結構。
ヨシタケ でも、なぜ美談がこれだけ世の中に蔓延(はびこ)るかというか、必要とされるのかも分かる。美談に感動したり、勇気をもらったり、救われる人もいっぱいいる。ただ、そんな美しいお話ですべての人が救われるわけではなくて、たぶん最大で7割。残りの3割くらいのなんだかひねくれた人たちは、やっぱりそれだとしっくりこないはずなんです。
上白石 わかります。
ヨシタケ 僕もそっちの3割側として、どんな物語なら救われるのかを考えざるを得ない。
たとえば、「夢って叶わないよ」と言われた方が安心してチャレンジできる。「叶わないのは努力が足りないからだ」と言われても困っちゃう。逃げ道があって初めて物事に向き合える。そんな僕みたいな人も、さらに少ないけど1割5分くらいはいるはずで。僕自身や、僕のような人たちに向けて「一緒に傷を舐め合いませんか」という気持ちで描いています。だから正直、僕の絵本にわりとたくさんの方が「わかる、わかる」と言ってくださったのは、いまだにやっぱり、想定外。
2023.12.21(木)
出典元=「文藝春秋」2024年1月号