上白石 1割5分どころか。

 ヨシタケ はい。驚きました。妬み、嫉みのような、あまり推奨されていない感情をたくさんの人が持っているんだという驚きが一つ。それから、みんな持っていながら見えないようにちゃんと隠して生きているんだという驚きが一つ。僕は隠しきれずに半世紀過ぎちゃったんだという、二重の驚きがありました。

 上白石 フハハッ。

 ヨシタケ いまとなっては、隠しきれない感情を仕事道具にするしかないなって。隠しきれないことを面白がって、珍しがってくれる人がいてくれることを喜びたい。「正々堂々、弱音を吐いていこう」。そんな思いです。

 上白石 言葉もそうだし、添えられている絵がまた、すっごく絶妙。ポップすぎず、可愛すぎず、その逆でもなくて。絶妙な温度感と、この無表情。余白があるというのか、何を考えているのか、こちらがつい勝手に想像してしまうような人たちが添えられていて、そのバランスが心地いいんです。

 ヨシタケ その感想も嬉しいです。

人に見せる用じゃない

 上白石 (『日々臆測』の表紙を指して)私、ヨシタケさんの描くこの「目」が好きなんです。いますよね、こういう無表情の人。ぜんぜん「絵本用の顔」じゃない。

 ヨシタケ そうなんです。

 上白石 今朝も電車にいましたもん、この顔の人。

 ヨシタケ ハハッ。人間やっぱり真顔でいる時間の方が圧倒的に多いですよね。絵本だとどうしても、パパもママも子どももニコニコしてることが多いですけど。いや、現実はそんなに笑ってないだろうって。

 上白石 やっぱり、そう思ってたんですね。

 ヨシタケ 見栄えはいいだろうけど、理由もなく笑ってるのを見て、「自分はなんでこんなに子育て楽しくないんだろう、絵本の中ではみんなニコニコしてるのに」って思う人もいるんじゃないか。笑顔が人を傷つけたりすることって、やっぱりある。だから自分の絵本に笑顔が出てくるときは、「そりゃ笑うだろ」って誰もが納得するような理由があるときだけに限定しています。

2023.12.21(木)
出典元=「文藝春秋」2024年1月号