今週から再放送が始まった連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」。その魅力を『ぼくらが愛した「カーネーション」』(高文研)、『連続テレビ小説読本』(洋泉社)など、朝ドラ関連の本も多く手がけるライターの佐野華英さんが紐解きます。
11月18日より月~金曜の昼12時30分~、「カムカムエヴリバディ」(NHK総合)の再放送が始まった。2021年秋から放送された「連続テレビ小説」(通称「朝ドラ」)第105作の本作は、祖母・母・娘、3代の女性の人生を通じた100年の物語。それまでの朝ドラになかった「3ヒロインのリレー」という斬新な構成に加え、第1回から最終回に至るまで緻密に計算された作劇で、多くの視聴者の心を掴んだ。
ドラマは、1925年3月22日、日本で初めてラジオが放送されたその日に、岡山で和菓子屋を営む家に初代ヒロイン・安子が生まれたところから始まる。安子を上白石萌音、二代目ヒロイン・るいを深津絵里、三代目ヒロイン・ひなたを川栄李奈が演じている。
不肖筆者、朝ドラはそれなりの年数、それなりの本数を観ており、朝ドラに関連する仕事を多くさせていただいているが、もし「朝ドラ観たことないけど一番最初に観るならどれ?」とたずねられたなら、『カムカムエヴリバディ』を推したい。その理由と、本作の尽きせぬ魅力を、3つのポイントに分けて解説していきたい。
(1)緻密な構成と作劇──「伏線回収」というより、人物が「生きた」先にあるもの
本作の脚本をつとめる藤本有紀氏は、朝ドラ「ちりとてちん」(2007年後期)、大河ドラマ「平清盛」(2012年)、「ちかえもん」(2016年)などの脚本を歴任した手練の脚本家だ。精緻な筆力と、フィクションとしてのダイナミズム、そして「物語愛」にあふれた作劇で知られる。
藤本氏は「ちりとてちん」のときも「カムカム」のときも、企画が動き出して間もなく初回から最終回までの全プロットを書いてきたという。書き手の中にブレない「核」と、堅牢な骨組みがある。それにスタッフ・キャストが一丸となって肉付けを施し、高めていった朝ドラは、やはり「名作となるべくしてなった」ということだろう。言わずもがな「ちりとてちん」も未見の方にはぜひご覧いただきたい一作である。
本稿を書くにあたり第1週「1925-1939」を再度視聴し、あらためて「カムカム」の細密さ、巧妙さに唸らされた。これから初めてご覧になる方のためにネタバレは最小限に留めるが、第1週に全ての種が撒かれているのである。第1回から第5回までの全ての台詞が聞き逃せないうえに、人物の言動・場所・名前に意味と必然性がある。それらが今後、物語の導線となっていく。これも、最初の段階で「全話のプロット」という骨組みがあったからこそ、成し得たことだろう。
たとえば第4回で、安子の恋の相手・稔(松村北斗)が喫茶店「ディッパーマウス・ブルース」でルイ・アームストロングの「On the Sunny Side of the Street」を聴きながら歌詞を見る。そして、「Sunny Side」を「日なたの道」と訳す。この「日なたの道」というキーワードが、この物語を支える礎(いしずえ)となっていく。
「カムカム」はよく「伏線回収が見事」などと称賛される。しかし、全話観終えてからあらためて第1週を観返してみると、これはもう、小手先のギミックやテクニックを飛び超えたところにある──言い換えれば、神業すぎて「技術」と感じさせない、「人の営みと生き様による因果」と思えてくるのだ。おそらく作り手の中に、全登場人物の性質と、その性質ゆえに彼らが互いに影響し合い、形づくる各々の人生がしっかりと「存在している」のだろう。
また、制作発表の時点からアナウンスされている、「ラジオ英語講座」「あんこ」「野球」「ジャズ」「時代劇」という5つの要素。こんなにもてんこ盛りなのに、これらが見事に物語を彩り、つないでいく構成の妙にも注目されたし。さらに上記以外に「るい編」以降、劇中にたびたび登場する、各時代に放送されていた「朝ドラ」も「時の栞(しおり)」として重要な役割を果たしている。『カムカム』は、昭和・平成・令和史を辿りながら、朝ドラ史を俯瞰する物語にもなっている。
2024.11.22(金)
文=佐野華英