(2)時間描写の魔法──見えないところで何が起きたかがわかる作劇と演出
3人のヒロインの人生を描くとあらば、1人につき3倍の速さで進める必要がある。実際、物語はテンポよく大胆に展開していくのだが、その一方で、季節の移り変わりや人物の心情の変化を丁寧に追っている。「すっ飛ばし感」や「雑さ」とは無縁で、むしろ視聴者を3倍没入させる、3倍濃密なドラマになっているところが本作の大きな魅力だ。
「明日どうなるんだろう」というハラハラドキドキの「引き」をしっかりと作りながら、登場人物たちの「生活と日常」を細やかに描くことを忘れない。「ひとりひとりの日々の小さな積み重ねが、やがて大きな物語を動かす」というこのドラマの隠れテーマ、そして作り手の哲学が一貫している。
「時の物語」である「カムカム」は、時間の描写が実に巧みだ。この朝ドラは、その週が描くタームを週タイトルの年号が示すだけで、ドラマ本編に「○○年・春」というようなテロップはもちろん、カレンダーさえ出てこない。庭を彩る花が紫陽花から牡丹に変わったことで、初夏から冬に季節が流れたことを見せ、名勝負として記録に残る高校野球の試合をラジオから流すことで、今が何年何月何日なのかをさりげなく知らせる。
人物のしぐさや一瞬の表情、ひと言の台詞により、「今映し出されているシーン」の外で何が起きて、人物の心がどう動いて今に至ったのかを、観る者に瞬時にわからせる。こうした「時間描写の魔法」が本作を、半年間、1日15分ずつ、じっくりと玩味できる作品たらしめている。
2024.11.22(金)
文=佐野華英