44歳で米マイクロソフトに転職し、4年前からアメリカでAzure Functionsというクラウドサービスのエンジニアとして働いている牛尾剛さん。「世界一流のエンジニア」と仕事をする中で気が付いたのは、彼らも全員が天才というわけではなく、「思考法(マインドセット)」が高い生産性を形作っているということだった。
実は30代でADHDだと診断された牛尾さんは、不器用さやぐったり疲れる感覚に悩んでいた。だからこそ不得意な仕事でも生産性を上げることを研究してきたという。できるプログラマとできないプログラマの差は25倍あると言われるソフトウェアの世界の中で、牛尾さんが見出したマインドセットを綴った『世界一流エンジニアの思考法』より、一部を抜粋して紹介する。
生産性を上げたければ定時上がり
皆さんも、長時間労働はかえって効率が悪いという話は聞いたことがあるだろう。長年、私もそのぐらいの認識はあって、昔からきちんと休もうと努力するが、「アウトプットが減ってしまうから満足できずに元に戻る」ことの繰り返しだった。
開発チームに加わってからというもの、ドリームジョブの中にいるから非常に楽しいが、プライベートの充実感は低かった。連日、深夜まで仕事に取り組み、やってもやっても終わらない作業で押しつぶされそうだった。決してやらされているわけではなく、納期もないのに、作業していないと不安になってしまう心理状態だった。
一日の大半が仕事で埋め尽くされているので、それ以外のことが全くできていない。人付き合いに時間を使えないし、家の中はぐちゃぐちゃだし、渡米後の事務処理もままならず必要な書類すら読めていない。30代のときにADHDと診断されている私は、昔からそういう整理が極度に苦手だったこともあり、ほったらかしだった。
だから、「自分の人生をコントロールできていない感」が常に自分の中にくすぶっていた。ADHDなのだから「人生のコントロール」はもう諦めるしかないのだとも思っていた。
アメリカに来て2年経った頃、私は精神的、体力的にすっかり限界を感じていた。英語の環境下で、相当チャレンジを重ねてきて、周りはものすごくプログラミングができて技術力が高い中で成果を出すには、とにかく頑張るしかなかった。会社や上司からのプレッシャーはないが、自分の実力不足は痛感していたから、職場は修行の場だと思って、猛烈に働いていたのだ。
ある日ふと、「もう挑戦はやめて日本に帰ろうかなぁ。プログラマが自分に向いてないのはわかってるし……」と思った。自分は何がしたかったんだろう、自分は本当に幸せなのかな、と壁にぶつかった。
2023.11.29(水)
著者=牛尾 剛