おそらく本書中もっともえぐいのは「ロボトミー」について語った第一三章で、これは統合失調症患者や幻覚症状のある精神疾患患者の頭蓋骨を開き、前頭葉の一部を切り離す手術のことをいう。手法には変遷があるが、最終的には錐状の金属製の棒を眼球の上部から差し込んで脳を直接傷つける「アイスピックロボトミー」に辿り着く。

 これを行うことで脳が壊れ大人しくなることもあるので、体や発声の制御がろくにできないレベルの精神病患者などについては当時の基準で有効といえる側面もあるのだが、多くの患者は術後に死んだり障害に悩まされることになる。人類史の中でもトップレベルで愚かな治療法といえるが、当時は精神病の患者が多すぎて家族と社会の重荷になっていて、誰もがその問題の解決方法を模索していた状況があり、ロボトミー手術を推し進めた人たちも、なんとか患者と家族の苦痛を低コストかつ素早く治療できないか、と悩み、求めた結果だったといえるのだろう。

 第四部「動物」の中では「食人」の章がとりわけ印象に残る。ここでもパラケルススが出てくるが、彼は人体の一部が含まれた治療薬には魂やエッセンスが仕込まれており、その薬効で病が治ると考えた。また、これは今でも似たことをする人は絶えないが、元気な人間の血を飲むと健康が手に入るという考えが昔から根強く残っている。癲癇の患者たちは剣闘士の血を飲み干したし、一七世紀でも罪人が斬首されると、壺を片手にかけよってそれをそそぎこみ、新鮮な血を浴びるようにして飲んだという。

危険で間違った治療法がなくなることはない

 読み通すと、「医療」の難しさがわかってくる。何しろ、人間がかかる病の大半は放っておいても治ってしまうから、インチキ療法であっても、自然治癒してしまう可能性は高い。「治療を受けたのだから」というプラシーボ効果が発揮されることもある。そうすると、インチキ療法と本当の治療の判断をするのは難しくなるし、それは治療を受ける側だけでなく、施術する側もそうである。

2023.10.09(月)
文=冬木糸一(書評家)