蒼紫の言動で「理解できないこと」はなかった
――目的がはっきりしているということが、蒼紫のキャラクターを立たせてくれるんでしょうね。
表情が見えない人ですが、彼は「御庭番衆こそが最強」と言っていますからね。御庭番衆たちに生きる価値を与えてあげたい、俺たちはここにいていいんだと叫びたい。彼らにとって、人を斬ったり戦い続けることだけが生きる価値を証明できる行為。戦争が終わり、それでも生きる道を見つけられる人はいただろうけど、残った御庭番衆たちはそうはなれなかった。蒼紫自身は他の才能もありそうですが、御庭番衆のためだけに自分も戦い続けるという生き方を選んだ。それがわかっているので、僕としても彼が理解できないということはなかったですね。
人を斬るってとんでもないことなので、蒼紫がやっていることは決して軽くすませられることではないですが、そこまでの覚悟を持っているんだなと、僕はそう解釈して芝居したい。どのキャラクターの思いも丁寧に描かれていることが、「るろうに剣心」の面白さなんじゃないかなと思いますね。
――そういう考え方を持つ蒼紫を演じるために心がけたことはありますか。
声優という職業は一日も何キャラも演じるので、そのキャラのことだけを考え続けるっていうことはないんですね。だからこそ、スタジオに入ったら瞬発的にスイッチを入れるというのが声優。現場で必要なのは、台本とどこまで向き合ってきたか。アフレコの日は、蒼紫にとって何が大事なのかを考えて持っていくことが最も大事なことなので、台本が一番の手立てであり武器。台本に答えがすべて書いてあるので、これを読み込んでいくだけですね。僕ら声優は台本がないと無力です(笑)。
――蒼紫になるスイッチは入れやすかったですか?
現場に行けばスイッチを入れるしかありません(笑)。昔は一度スイッチをオンにするとオフに切り替えるのが難しかったんですが、大人になるにつれてスイッチの切り替えはそれなりにできるようになってきました。芝居ってすごく精神を削られるしつらいこともあるんですけど、それが楽しいんですよね(笑)。人によって解釈も違いますし。芝居って共演する演者さんとのコミュニケーションでもあり、自分と役とのコミュニケーションでもある。一人の人生を演じるってすごく面白いなと思います。
2023.09.28(木)
文=大曲智子
写真=釜谷洋史