カルチャーショックだらけのバングラデシュ弾丸ツアー
──「PHOENIX LAB. PROJECT」のメンバー全員で5月にバングラデシュへ視察旅行に行ったそうですが、いかがでしたか。
福屋 バングラデシュにはプロジェクトが動き始めたらいずれ行こうと思っていましたが、久保さんに「本格的にプロジェクトを始める前に行かないと、かっこ悪いよ」と言われて、急遽企画しました。
文字通りの弾丸ツアー。1日目の深夜にバングラデシュに到着して、翌朝8時にはホテルを出発。再加工に使う技術を知るために、バングラデシュのハンドクラフト製品やブロックプリント製品などを見て、倉庫へ。実際にキャンセル在庫を見て、どの製品を加工するかを考えました。
アパレル廃棄品の山がある場所や痛ましい事故のあったラナプラザ跡にも行きました。2日目、3日目もスケジュールはびっしりでしたが、おかげで刺繍などの手仕事の現場を見ることができたことで、キャンセル在庫のリメイクにあたってバングラデシュのハンドクラフトを活かすという方向性を固めることができました。
プロジェクトメンバー同士も色々な話ができましたし、より風通しが良くなりました。あのタイミングで行って良かったですね。
久保 自分で提案しておいてなんですが、僕は福屋社長や山口社長と違ってバックパッカーの経験もないし、まさか自分の人生でバングラデシュに行くことがあるとは思っていなかったんです。
だから、空港に着いた時点で最初のカルチャーショックを受けました。免税店が並ぶショッピングモールもないし、これまで見て来た先進国の空港とは全然違っていて。
あらかじめバングラデシュのハンドクラフトについては情報収集しておいたので、もの作りの面では準備できていたんですが、街中ではカルチャーショックの連続。でも、現地の人と話すうちに、遠い国の出来事だったことが自分事になっていきました。
福屋 街を歩いていると、バングラデシュの人たちにじっと見つめられるんですよね。たぶん日本人が珍しいんだと思うんですが。それで、こちらから話しかけると嬉しそうに答えてくれるのが印象的でした。
現地のアパレル工場の社長さんや工場で働いている人にもインタビューさせてもらったんですが、パンデミックで本当に仕事がなくなったときは、家族5~6人で少しの水を分け合いながらしのいだこともあったみたいで。我々が想像するより遥かに大変な状況だったんだ、とあらためて感じました。
そういう話を実際に聞いて、この人たちの生活環境や労働環境を少しでも良くしたいという気持ちが強くなりました。久保さんのおっしゃる通り、行かないとわからないことってあるなと。
久保 その通りですね。バングラデシュで大量生産される洋服や部屋いっぱいに積まれたキャンセル在庫の山を見て、ファッションビジネスの在り方も考えさせられました。大量生産によって一部の人が莫大な利益を得る一方で、廃棄も出る。でも、この人たちが必要とする労働を提供できることにも意味があると、直接話をしてみて確信を持てました。
あとは、彼らが作るものから受ける影響が大きかったですね。刺繍をしているところを見せてもらったんですが、あれだけの手仕事をあれだけのボリュームでやろうと思ったら、日本では大変なことですよ。まず、引き受けてくれる工場が見つかりません。
今回、このサンプルをアトリエに掛けておいたら、うちの社員が一斉にこの服めがけて寄って来ました。四六時中ファッションのことを考えていて服を見慣れている人ですら魅了するパワーがあるんですよね、こういう手仕事には。その光景を見たときに、「簡単に“消費”されない服が作れたかもしれない」という手応えを感じました。
2023.09.15(金)
文=松山あれい
撮影=平松市聖