この記事の連載

 書籍『心のおもらし』 は、俳優・佐藤二朗さんがAERA dot. (アエラドット)で5年間連載してきたコラムをまとめた書籍。佐藤さんらしい文体と心温まるエピソードが人気です。読者にぜひ読んでほしいコラムや、Twitterやコラムを執筆する際に心がけていることを佐藤さんに伺いました。インタビュー【前篇】を読む


『心のおもらし』で読んでほしいコラム

――書籍『心のおもらし』から、読者におすすめしたいコラムは?

佐藤 おすすめというか、印象に残っているので読んでいただきたいのは『合笑』(217ページ)と『あなたの耳打ち』(304ページ)です。『合笑』は、知人で俳優・脚本家・演出家の本田誠人さんが亡くなった時に書いたもので、『あなたの耳打ち』は演出助手の山田美紀さんが亡くなった時に書いたもの。私の中で、大切にしたいコラムです。

――面白いコラムがたくさんある中で、その2本を選ぶのが佐藤さんらしいというか。登場人物の注釈やエピソードの書き方から、周りの方々を大切にしている人柄が伝わってきます。

佐藤 基本的には面白を中心に書いているのですが、Twitterもコラムも、とにかく誰も傷つけない、不快にさせないということは大切にしています。仮に面白さが減じるとしても、人を傷つけない方を優先させていますね。

 例えば、ドラマ『浦安鉄筋家族』の撮影中に起きた出来事をTwitterに投稿したことがあって。『録音部の女子(23)が先ほど僕のネクタイに仕込んだ小型マイクを直しながら「先っぽが出ちゃって…フフ…マイクのですよ、マイクの先っぽですよ…フフ」と言って去っていったが、多分3日はイケるし、ありがとう瀧本しおり(実名・許諾済み)だし、是が非でもこの呟きを妻が見ないよう死力を尽くす』って。瀧本さん自身はその後、「実家のお母さんがめちゃ喜んでました」って言ってくれましたけど。

 そうやって誰かの名前をあげる時は、絶対にその人が得する書き方をしなきゃなって思うんです。もちろん脚本を作る時は、いい作品を作るということだけを考えて、「誰も不快にさせない」というのを気にしすぎるのはよくないと思う。そこには、フィクションである脚本と、リアルであるTwitterとコラムという違いもあるのかもしれないけどね。

 でも書くという行為自体は、どちらかに転ぶことだから難しいとも思うんです。誰かが面白いと思うものは誰かにとってつまらないものだし、誰かが喜ぶことは、誰かが悲しむことかもしれないからね。

2023.07.15(土)
文=ゆきどっぐ
撮影=石川啓次
スタイリスト=鬼塚美代子(アンジュ)
ヘアメイク=今野亜季(A.m Lab)