映画監督の夢を諦めるための“諦め三部作”の誕生

――塚本組に参加する合間に、バイトで貯めたお金で自主映画を製作。ところがいろんな映画賞に応募しても、一次審査すら通過できない。その苦悩は自身がモデルの『ばしゃ馬さんとビッグマウス』でも描かれていますが、それがどう「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」グランプリ受賞の『なま夏』に繋がっていくのでしょうか?

『なま夏』までは、カッコつけて、どこかテーマ性のある自主映画を撮っていたんですよ。『なま夏』は友達の女のコから聞いた「ナイフを突き付けられて痴漢された」という話から始まったんですけど、最初は残された被害者と加害者の家族を描くというシリアスなドラマだった。でも、それがしっくりこないなか、「女子高生が痴漢されている」シーンだけ明確なヴィジョンが浮かんできて、それを撮りたい欲求が生まれてきた(笑)。そこで、自分が好きなものだけ撮ろう。それがダメだったら子供の頃からの夢だった「映画監督」の夢を諦めようって。それで『なま夏』『メリちん』『机のなかみ』という3本の脚本を書くんですが、これは自分の中で“諦め三部作”と呼んでいます。

――その一本目『なま夏』がグランプリを受賞したときの気持ちって、どうだったんでしょうか?

 映画監督になったことでの自分のなかのビッグバン的な感動がこれまでに2回あるんですが、そのひとつが『なま夏』でグランプリを獲った瞬間。初めて壇上に上がってスポットライトを浴びたことで、見える景色が変わったわけですよ。それまでまったく陽の目を浴びなかった分、反動がデカすぎた(笑)。もうひとつは、初めての商業映画というか、自主映画じゃない作品だった『机のなかみ』のクランクインの日にロケバスが走り出した瞬間。「俺の人生という名のバスが走り出した」と思いながら、タバコを持つ手が震えましたよ(笑)。

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2013.12.14(土)
text:Hibiki Kurei
photographs:Mami Yamada