「作中作を一冊まるごと書いてみたかった」
恩田さんは、ものを作るということに昔から興味があると、インタビューでもたびたび語ってきた。本作でも、映画監督や作家、マンガ家ユニットの姉妹など、登場人物は創作に関わる人がぞろぞろ。彼ら彼女らそれぞれの創作論が、これまた面白い。
「映画や小説を人がどうやって作っているのかはもちろん、映画プロデューサーや文芸編集者など触媒的な役割をする人も含めて、一口に創作と言っても発露の仕方もいろんな形があるな、いろんな才能があるなとものすごく実感するようになってきたんですよね。特に、ものを書く人への興味は尽きません。小説にしても書き方は本当に人それぞれ。よく『小説教室』とか『シナリオの書き方』とか、創作法をまとめた本が出版されていますよね。私、あれを読むのが大好きなんですよ! 読むたびに、自分には全然当てはまらないなという結論にはなるんですけれど、他の人がどうやって書いているのか知るだけでも面白い。もっとも、いくら創作技術を読んでも、何10年と書いてきても、執筆の勝利の方程式は確立できなかった。それだけは十分わかりました(笑)」
作中作である『夜果つるところ』は、遊郭「墜月荘」で生まれた〈私〉が、その奇妙な館にいる三人の母やそこでの暮らしを語る、幻想的な物語だ。血なまぐさく愛憎に満ちたこの小説は、幾度映画化を試みても完成したことがないという来歴を持つ設定だ。
「作中作を、本編に断片で織り込むだけでなく、一作丸ごと書いてみたいというのもひとつの目標でした。同じテーマや題材でも、〈恩田 陸〉として書いたら、こんな風には書かないだろう、もっと迷ってただろう、と思いましたし、全然違う作品になったかも。ただ、他の作家になりきって書くというのは面白い経験でしたね」
2023.06.18(日)
文=三浦天紗子
撮影=平松市聖