石井 そんなふうに思ってくれていましたか。ありがたいですね。

 小川 僕らの時代にも、貧しい家庭の子がいたと思うんです。先生は、覚えておられますか? 親も同行する遠足があって、そのとき僕のおふくろが弁当を二つ作ってきて、一つを先生にあげたんです。僕は子どもながら、なんかズルをしているような気持ちになってしまったんですが、それを先生が「ありがとうございます」と受け取って。

 それで、その日、親が来ていなくて、弁当も持ってきてない子がいたんですが、先生がその子に、うちのおふくろが作った弁当を「これ食べなさい」と渡したんです。

 当時は僕も子どもですから、逆に「先生、何するんじゃ」と思ったんですが、今から考えると、うちのおふくろも優しい人でしたから、ひょっとしたら先生がそういう子らに弁当をあげるところまで考えていたのかもしれません。すでにおふくろは亡くなりましたので、はっきりしたことはわからないんですけどね。

 石井 そうですか……。

歌う哲代おばあちゃん103歳!」全文は、月刊「文藝春秋」2023年6月号と、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

2023.06.15(木)
文=石井哲代、小川 長