〈大きな声で熱唱〉

 小川 すごくいい曲ですね。何番まであるんでしたっけ?

 石井 たった六番まで。

 小川 二番以下はまた次回に取っておきましょうね(笑)。こんな感じで、先生はよく歌を歌われて、指揮を取られてね。うちのおふくろも先生のお誘いに乗ってママさんコーラスに寄せていただいて。

 石井 そのママさんコーラスがテレビで紹介されることになって、お母さんら15人くらいと放送局へ行ったんです。本番前、気づいたら私一人しかおらんの。どうしょうか思うて探しとったら、皆おトイレに行って、ええ着物に着替えようちゃったの。すごい光景でした(笑)。

 小川 先生は一張羅に着替えなかったんですか?

 石井 私は行ったなりの服でございます。

 

生徒の鼻水を拭いてやる

 小川 先生の本を読んでいて、「ああ」と思った文章がいくつかあったんです。まだ先生になられたばかりの、たぶん戦時中の話だと思うんですけど、朗読しますね。

「昼休み、校舎の脇の日だまりに長椅子を出して、子どもたちを座らせるの。順番に爪を切って、髪をとかして、鼻水を拭いてやるのが日課でした」と。それで、「一人一人に全力で愛情を注ぎましたよ。手を握り、頭をなでてやるうちに向こうも安心して体を寄せてくるの。いとおしかったです」。

 僕が小学校に入った頃は、高度経済成長期で、さすがに先生に鼻水を拭いていただいたりするようなことはなかったんですが、手を握ってもらったり、頭をなでていただいたり……ということは確かにあったと思います。すごく愛情を込めて僕たちに接してくださいました。そのことが忘れられません。

 石井 ああ、嬉しいです。

 小川 僕も教育の仕事に携わるようになって、どこまで石井先生のようなことができているかはわからないんですけど、僕が思っている理想の先生のイメージは常にこのときの石井先生なんです。一歩でも二歩でも石井先生に近づきたいという気持ちで、学生たちを温かく見守ってやりたいなと思っていまして。

2023.06.15(木)
文=石井哲代、小川 長