手渡された懐中電灯の灯りだけで行われた撮影
――ドラマを拝見していても、自分もあの現場にいるように感じられるくらい、恐怖と切迫感を味わいました。暗闇の演出がとてもリアルで、息を止めて見てしまう場面がいくつもありました。
あのとき中央制御室は津波によって全電源を失ってしまったので、懐中電灯に頼るしかない状況でした。撮影では暗闇を表現するシーンであっても、僅かな照明を使って人物や背景がうっすら映るような撮り方をする場合が多いのですが、今回は監督のこだわりで、役者たちに手渡された懐中電灯の灯りだけで撮っていたんです。
ですので、撮影現場で懐中電灯のスイッチを切ってしまうと本当に何も見えなくなってしまうため、演者たちにとっても、それが実際起こった状況を少しでもイメージできたのではないかと思います。
――作品の描かれ方も、刻々と起きるできごとを淡々と伝えていて、ドキュメンタリーに近いもののように感じました。現場はいかがでしたか? 監督とはどのようなお話をされたのでしょうか。
事実に基づいた題材でしたので、現場は普段の撮影とは違い、良い意味で独特の緊張感が漂っていたように思います。
監督からは、撮影に入る前に「出来るだけ劇的に見えないように撮っていきたい」というお話を伺っていました。切迫する極限状況下であっても、粛々と作業を進めていった現場の状況をリアルに伝えたいという思いを感じていました。
2023.05.31(水)
文=CREA編集部
撮影=佐藤 亘
ヘアメイク=須田理恵
スタイリスト=下田梨来