社会学研究者の金田淳子氏による「BLにハマる女たち」を一部転載します。(月刊「文藝春秋」2023年5月号より)

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 2018年4月から放送された連続ドラマ「おっさんずラブ」(テレビ朝日系)は、オフィシャルブックの発行部数が16万5000部を超え、「ザテレビジョンドラマアカデミー賞」といったドラマ関連の各賞を受賞するなど、異例の大ヒットとなりました。

 同作は、田中圭さん演じる不動産会社の社員が、上司や後輩から好意を寄せられ、やがて恋に落ちるという物語。これだけ書くと昔からよくある恋愛ドラマのあらすじのようですが、それまでの多くの恋愛ドラマと違うのは、上司を演じたのが吉田鋼太郎さん、後輩を演じたのが林遣都さんという点。つまり、男性同士の恋愛を描いた物語という点です。

 それまでも男性同士の恋愛を描いた映像作品はあり、例えば1993年の「同窓会」(日本テレビ系)が当時話題になりましたが、他の多くはミニシアターのみで上映されるもの。全国区の地上波で放映され、映画化されるほどヒットした作品は、「おっさんずラブ」が初だと思います。同作のヒットを皮切りに、「きのう何食べた?」「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい(通称チェリまほ)」(ともにテレビ東京系)など、ここ数年は全国区の地上波で男性同士の恋愛を描いたドラマがほぼ毎週放送されるようになりました。

 ドラマに限らず、主に女性に向けて男性同士の恋愛を描いた作品は「ボーイズラブ」を略して「BL」と呼ばれています。近年はドラマの影響もあってよりメジャーになり、市場規模も拡大していると言われるBLですが、そもそもBLとは何なのか。なぜ女性たちがBLにハマるのか。社会学研究者であり、そして大のBL好きでもある私なりの考えをお話ししたいと思います。

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 BLという言葉が使われるようになったのは、1990年代のこと。女性向けに男性同士の恋愛やセックスを描く新しい商業誌が次々に創刊された時期で、そのジャンルを表す言葉として90年代末ごろに「BL」が定着しました。そのため最も狭義では、BLとは「90年代以降にBLレーベルで発表された作品」ということになります。しかし、BL的な作品――つまり女性に向けて男性同士の恋愛やセックスを描いた作品の歴史はもっと長く、90年代に突然出てきたものではありません。

2023.05.25(木)
文=金田淳子