「だがそれがいい!!」

 富山県で生まれ育った私が最初に触れたBL作品は、少年愛の金字塔とも言われる竹宮先生の『風と木の詩』でした。同作の連載がちょうど終了した84年、私が小学五年生のころのことです。当時、地元の公民館の本棚に『風と木の詩』が置いてあり、女子がさかんに回し読みしていました。私の順番が回ってきた時、緻密なストーリーは理解できないながらも、「これだー!!」と、美しい性描写に大きな喜びと興奮を覚えました。しかし、その時私はまだ同性愛の存在や概念を知らなかったので、主人公の美少年ジルベールのことは少女だと思っていました。

 相前後して、魔夜峰央先生の『パタリロ!』というギャグ漫画を読みました。この作品は二十四年組の生んだ少年愛というテーマの影響を強く受けています。それを読んで、私は初めてジルベールが少年だということに気がつきました。男性同士の性愛だったことに事後的に気が付いたわけですが「だがそれがいい!!」と、強く思ったのです。

 当時の私は男性向けに作られた所謂エロ本を興味本位で見たこともありましたが、その描写は「汚らしい」と感じていました。

 加えて、男女の恋愛を描く少女漫画も、あまり好きではありませんでした。今考えれば、少女漫画には当時でも膨大な数の作品がありますから、私の好みに合う作品は存在したと思います。しかし、小学生の私が出会った少女漫画のうち、恋愛が主題の作品では、ヒロインの個性や行動に違和感があって、好きになれなかったのです。

 私は強くて勇敢な「アマゾネス」のような女性キャラや、室山まゆみ先生の『あさりちゃん』のようなひょうきんな女子キャラが好きでした。けれど恋愛漫画のヒロインは、健気で可愛らしい子が多く、共感できませんでした。私自身が現実の恋愛にはあまり興味がなかったのもあり、異性間の恋愛の描写に憧れることもありませんでした。

 でもBLは違う。BL作品で描かれるのは男同士の世界で、自分とはまったく別の世界。だからこそ現実の自分と比較したり、違和感を覚えたりせずに没入することができるのです。

社会学研究者の金田淳子氏による「BLにハマる女たち」の全文は、月刊「文藝春秋」2023年5月号と、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

2023.05.25(木)
文=金田淳子