女性のための文化

 やがてBLという言葉は、オリジナル作品も二次創作も含めて、男性同士の恋愛やセックスを描いた作品全般に使うことも増えてきたのですが、特筆すべきは、少年愛や耽美から、二次創作のやおい、現在のBLに至る流れの中で、作者のほとんどが女性で、読者の多くも女性であるという点です。

 

 私が考える、最も広義のBLの定義は「女性が女性に向けて描いた男性同士の恋愛やセックスの物語」です。男性同士の恋愛やセックスを描いた作品は古代ギリシアの時代からありますし、日本でも井原西鶴の浮世草子『男色大鑑』などがあるように、大昔から絵や文章など無数の作品が存在します。

 こうした作品とBL作品の決定的な違いは、BLが「女性が、女性に向けて描いた、女性のための文化である」という点なのです。

 実際、竹宮先生が70年代初頭に初めて短編の少年愛作品を「別冊少女コミック」に掲載しようとした時、男性中心の当時の雑誌編集部では当然のように反対の声があがったといいます。結局竹宮先生は半ば強行突破で作品を掲載し、それを読んだ少女たちから「こういうのを待ってました」という、熱烈な手紙が殺到しました。以降、少女漫画雑誌にはBL的な作品が掲載されるようになりますが、こうした反響がくるまで男性の編集者たちは、少女たちが男性同士の恋愛物語にこれほど熱狂するとは、まったく想像できなかったのです。

 ではなぜ女性たちがBLにハマっていくのか。一口にBLといってもオリジナルから二次創作まで幅が広く、なおかつ「性表現」という非常にプライベートな領域を含むこのジャンルにおいて、動機の分析をすることには慎重さが必要です。例えばスポーツ観戦をするファンも動機は人それぞれであるのと似て、BLとの出会いや、惹かれるポイントは人それぞれだからです。

 私の場合は、異性愛を描いた物語への違和感と、現実社会の抑圧的な異性愛規範、ジェンダー規範への疑問が、BLに惹かれた所以に大きく関わっています。

2023.05.25(木)
文=金田淳子