文化財の宿だからこその温泉と美食を堪能する
新井旅館に宿泊したら是非とも入りたいのが「天平大浴堂」。樹齢1,000年を超える檜を使い、仏教芸術が花開いた天平時代の建築を模しています。荘厳な建物での入浴は、時代を超えて別世界に訪れたかのよう。
掛け流しのお湯に浸かり、窓を見やると、鯉が浮かぶように泳いでいることに気づきます。窓枠の上部が池と同じ高さに設計されていて、池の中が見えるのです。
館内の貸切風呂なども同じ構造で、その湯に浸かった芥川龍之介は、「ここの湯は(温泉の絵)言ふ風になつてゐて、水族館みたいだ。これだけでも一見の価値あり」と書くほど。お風呂嫌いで知られる文豪をも魅了したのです。
また2023年4月には、新たに、露天風呂「折節の湯 雪花」が完成しました。より気軽に露天風呂を楽しんでもらおうとの館主の計らいです。
四季折々の味覚を堪能する
夕食は四季折々の食材を活かした会席料理。この時は新緑や桜など美しい春の景色を表現した特選会席「春霞」がふるまわれました。客室でゆっくりと堪能できるのもうれしいポイントです。
春野菜盛りの器には、うるい塩麹掛けや、菜花白和、たらの芽揚げなどが。春の香りが口一杯に広がります。
組肴は蓋付の深皿。蓋を取ると、菱餅型の真薯や桜型に寄せた長芋などがお目見え。
一つひとつ洗練された作品のようで、春の美しさや贅沢さを感じさせます。
お造りは川魚のアマゴ、初鰹、マグロ、カンパチ。海と川の幸を、修善寺名物、生わさびと共にいただきます。優しく上品な辛味が味を引き立てます。
わさびはお造りだけでなく、なんと白米に乗せてもおいしいとのこと。伊豆修善寺産の「桂流こしひかり」におろしたてのわさびを乗せ、自家製ふりかけとほんの少しお醤油をかけて。わさびの香りとご飯の甘みが口一杯に広がります。伊豆ならではの贅沢ですね。
焼物は、ふっくらと柔らかく、コクのある鰆の西京焼き。そして、香ばしい鱗としっとりとした上品な身を楽しむ甘鯛の若狭焼。皮ごと焼いた旬の筍は、皮を剥きながらいただき、春らしい味覚を楽しめます。
その時の旬と、伊豆の恵みが詰まった会席料理はまた新井旅館に訪れたいと思わせてくれます。
朝食は三段重御膳をお部屋で。桂川のせせらぎに耳を澄ませながら、あたたかな湯豆腐でじっくりと体を温めます。
お重に入った湯葉などを一口ずつ丁寧にいただき、心地良い目覚めを。
数々の文人墨客の足音が聞こえるような新井旅館。かつて画家を志した3代目館主は夢を託すように若き画家らを招き、数々の文人墨客らと交流しては、文化の場を築き上げました。画家らはここで思う存分絵を描き、巨匠となっていったのです。
3代目は好奇心旺盛で愛情深い人だったのでしょう。その血を引く女将が見せる人懐っこい笑みやもてなしに、その姿を想像しました。
多くの文化人らにインスピレーションを与えたこの宿は、今なお訪れた人の心を動かしつづけています。その感動がまた、次の文化へとつながっていくのでしょう。
国の登録文化財の宿 新井旅館
所在地 静岡県伊豆市修善寺970
電話番号 0558-72-2007
料金 1泊2食ひとり 25,000円~(税別)
http://arairyokan.net/
有形文化財に泊まる
2023.05.15(月)
文・撮影=神谷加奈子
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