この記事の連載

機械的につけ足すだけではうまくいきません

──ちょい足しことばは、ただ闇雲に使えばいいわけではありませんよね。効果的な使い方についても教えていただけますか?

今井 あたりまえのことを言うようですが、頭で考えて、ただ機械的にことばをつけ足すだけではうまくいきません。たとえば、小学校低学年の子どもにお菓子をあげたと想像してください。「お菓子をありがとう。これちょうど食べたいと思っていたお菓子です。よく食べたいってわかりましたね。とってもうれしいです。本当にどうもありがとう」と流ちょうに言われたらびっくりしませんか? たどたどしくても満面の笑みで「ありがとう」と言われたほうが、気持ちが伝わりますよね。

 感情や意思、心の中は、まず声に出て、それからことばに表れます。飛行機やデパートの場内アナウンスを聞いたときに「自分一人に向けられたものではないな」と感じてしまうのは、目の前の特定の一人ではなく不特定多数の人が不快感を感じないような声色で話しているからです。

 逆に、ドラマや映画などでよく見る、男性が女性の家に行って「お嬢さんと結婚させてください」と挨拶する場面。あれを場内アナウンスのような高めのやわらかい声で話したらどう思うでしょうか。カラカラに嗄れた声でも、一生懸命に腹から絞り出した声で話したほうが、誠意が伝わると思いませんか? つまり、「上手にちょい足しことばを使う」のが大事なのではなく、どんな思いでことばを「ちょい足し」するのかが大事だということです。

──なるほど、勉強になります。どうすれば自分の思いをちょい足しことばに乗せられるようになるのでしょうか。

今井 まずは使ってみることです。最初はうまく話せなくても、繰り返し使うことでだんだん自分のことばになっていきます。

 最初は、会話の間に「そうですよね」「よくわかります」と共通のあいづちを打つだけでもいいと思います。あいづちに自分の気持ちを託し、「あなたの話を真剣に聞いています」という気持ちを態度で示せれば、人間関係の輪は自然に広がっていきますから。私自身、ちょい足しことばを使うようになって友達が増え、上司や部下から一緒に仕事がしたいと言われるようになったので、これは実証済みです。

2023.05.18(木)
文=相澤洋美
撮影=釜谷洋史