「花巻そば」の進化系

 小澤店主がどうしても食べて欲しいそばがあるという。それは「花巻そば」の進化系だとか。一般的な「花巻そば」は黒い海苔がのるだけで風情もないので、工夫をしてみたという。そして完成したのが「あおさ海苔と小ねぎのそば」である。どんぶりの下半分があおさ海苔、上半分が小ねぎ、そしてその間に白ごまを敷き詰めている。「わさびを溶き入れて少しずつ崩して食べてください。食べ終わったら最後にごはんを入れてお茶漬けにしてもうまいです」と小澤店主はいう。

 まず、つゆをひとくち。鯖節を中心とした出汁でつゆはふくよかな甘みが心地よい。そしてあおさ海苔の香りがつゆとそばに染みわたる。少しずつあおさ海苔を崩していき、白ごまと小ねぎを併せて食べ進む。「花巻そば」に食べ進む喜びが加わったようなストーリーが感じられる出来栄えだ。

上中里「浅野屋」に感じた「潔さ」

 ここまできて、はっと気が付いた。確かにミシュランの星をとるような華やかなメニューが並ぶ店でもないし老舗店とも一線を画している。

 

 つまみのメニューも一手間工夫がされているものが多く、決して華美ではなく季節ものを大切にしていた。地元の方がちょっと一杯で楽しめるラインナップでもあった。飲んだあとにちょっと食べたいひとのために「〆の小もりそば」という気の利いたメニューもあった。

 そして暖簾会系の「浅野屋」然ともしていない。独自の路線を歩んでいるように思う。そばは「花巻そば」をアレンジするなど、昔の味を進化させていた。他にも気がついたことがあった。暖簾会系の店ではうどんやラーメンまで置いている店もあるが、上中里「浅野屋」にはそばしかない潔さがあった。

「吟味と深化」は、ひとつの活路

 上中里「浅野屋」の味を堪能した。訪問前まで、私は「町そば」は「町中華」のように多岐にわたるメニューを揃えて、大勢のお客さんに応えることが理想なのかと考えていた。しかし、上中里「浅野屋」のように、品揃えを吟味して、より深化させる方向に進むのも「町そば」の1つの生き抜く道だということも分かってきた。もちろん、店の来客数や立地条件というのもあると思う。

2023.05.02(火)
文=坂崎仁紀