テレビの影響か最近、「町中華」が人気だ。BS-TBSで放送されている『町中華で飲ろうぜ』は、玉袋筋太郎氏の軽妙な会話と人情味あふれる交流がみどころ。都内の町中華の一大勢力「生駒軒」ルーツの話は実に面白い。「町中華」が人気になるのなら「町そば」だって忘れちゃいけない。

「町そば」といえば「暖簾会」

「町そば」といえば暖簾会系の店がほとんどだ。暖簾会とは互助組織のようなもので、創業店が弟子の暖簾分け開業を助けたり、食材を一緒に仕入れることで値段を抑えたり、品質を守ったりする組織である。「藪」「更科」「長寿庵」などの老舗系から「増田屋」「満留賀」「朝日屋」「浅野屋」、また小さい2~3軒のものまでたくさんある。

 こうした暖簾会系の「町そば」は昭和の時代には繁盛していたが、近年はファスト系に押され気味との印象もある。

 そこで今回は、そば好きな友人の誘いで上中里にある「浅野屋」を訪問して「町そば」の取り組みを覗いてみることにした。

 JR上中里駅に降り立つ。小さな駅である。改札を出てすぐ左の通路に入り、新幹線の下をくぐるように高架の歩道橋を進み階段を下りると静かな住宅街が広がっている。尾久の車両基地や東北本線の方へまっすぐ歩いて行くと、左手に上中里「浅野屋」が現れる。

カフェバーのような落ち着いた雰囲気

 扉を開けて入ると2代目店主の小澤勝裕さん(54歳)と奥さんがにこやかに迎えてくれた。店内は白とベージュを基調とした落ち着いたカフェバーのような雰囲気である。左側は一面カウンター席、右側はテーブル席が並ぶ。入口すぐに石臼も鎮座している。

 上中里「浅野屋」は先代が1958年に創業した。小澤店主は21歳の時店を継ぎ、すでに33年以上経過している。「上中里は小さな町で、うちはそんな町で細々と営業しています」とやや謙遜しながら話しかけてきた。しかし、そばは大晦日などの多忙の時以外はすべて手打ち。小澤店主は調理師資格を持つ人だけが取得できる麺料理の専門調理師資格を持つ。

2023.05.02(火)
文=坂崎仁紀