壁におつまみやおすすめメニューが貼られている。小澤店主によると「高級な食材をそろえるというよりは、季節性やちょっとした工夫を演出するようなオリジナルな一品を常々考えて提供している」とのこと。
さっそく、つまみを注文!
さっそくおすすめのつまみを幾つか注文した。「あて(クリームチーズのかえし漬け)」は旨味の塊である。「ねこの気分(厚切り鰹節の燻製)」はまさにナイスなネーミング。しっとりとした鰹節は手が止まらない。「猛烈葉わさび」はわさび菜漬けにさらにわさびを和えたもので少しずつ食べないと咽(む)せてしまう。
季節ものの天ぷらがあるというので注文した。「たけのこ天ぷら」は縦に切ったタイプ。山椒塩で食べるとこれがアツアツホクっとしていてなかなか良い。そして「春菊とたけのこのかき揚げ」が登場した。短めに切った春菊はハラハラとほぐれて香りを放つ。采の目に切ったたけのこが心地よい食感を演出する。上品な逸品である。
「町そば屋」で初めて出会った「春菊天」
小澤店主に聞くと、「天せいろ」の天種に色合いの綺麗な春菊を使っているそうである。「町そば屋」や「老舗そば屋」で春菊を扱っているのは初めてだ。立ち食いそば屋以外でも春菊天を提供する店があったとは感無量だ。少し興奮気味である。
そして「白エビの天ぷら」は三つ葉の天ぷらが一緒に揚げられている。味が淡白な白エビを引き立てる演出だという。
こうなると、そばを食べずにはいられない。まず二八そばを使った「もりそば」を注文した。5分ほどで到着した。そのそばの姿はみずみずしく期待が膨らむ。そばをひとくち食べてみる。冷水でしっかり〆られたそばはコシもすばらしく細くしなやかである。
辛汁は本鰹節を中心に使い雑味などは皆無である。返しは程よく色合いも綺麗である。そばを少しつけて食べる。洗練された味とはこういうそばのことをいうのだろう。あっという間にそばを食べてしまった。
2023.05.02(火)
文=坂崎仁紀