ライヴの前日、スカートのリハーサルがあったのでその前に個人練習に入った。弾き語りのライヴで個人練習をするなんてめったに無いことだ。エレキ・ギターをアンプに繋ぎ、ああでもない、こうでもない、と最終的な形へと整えていく。ディストーションを踏み、弦を思いっきりボディに押し込むと得も言われぬノイズになる。それは言いたいことがあるのに押し黙ったときのような感覚に似ている。

 そうしてライヴの当日、私は果し合いに向かう直前のような顔をして会場入りをした。リハーサルをしながら「普段あまり見せなくなってしまった表情を見せるにはきっとうってつけの場だろう、みんなきっと驚くぞ」とエフェクターの設定を細かく追い込んでリハーサルを終えた。客席からロビーに通じる階段を降りるともうすでに芸人の方々も何人か会場入りしていて、(ある意味で破天荒な芸風で知られる)ムラムラタムラ氏に声をかけられた。なんとエンディング・テーマを担当したドラマ、「絶メシロード」のファンだと言うのだ。その時、突然、アウェイだからってかます必要などない、という当たり前のことに気がついてしまった。慌てて念のため持ってきていたアコースティック・ギターでもう一度サウンドチェックをさせてもらい、本番の直前までどちらでいくか悩ませてもらうことにした。

 公演が始まると、クラブでお笑いライヴが行われている奇妙さも相まって会場は大いに盛り上がった。刻一刻と出番が近づき、狼狽する私だったが、ネタパートの本来のトリであるガクヅケさんのネタを見て、心が動いた。エレキ・ギターでノイジーにかますのはきっと今夜は違う。もっと正面からぶつかるためにアコースティック・ギターの弾き語りにするべきなのではないか。そうして、シークレットゲストだったヨシダin the sunさんの歌ネタを聴いて、とっちらかった選択肢がようやく整理されていった。登場BGMがかかり、客席をかき分けてステージに向かうとき、「アコースティック・ギターでやろう」と心が決まった。

 終演後にきいた話だと、ヨシダin the sunさんの歌ネタの直後に大マジに曲を演奏した結果、とんでもない落差があったようで芸人さんたちの控室では今日イチのウケだったそうだ。ライヴはうまく行ったんだと思う。

澤部 渡(さわべ・わたる)

2006年にスカート名義での音楽活動を始め、10年に自主制作による1stアルバム『エス・オー・エス』をリリースして活動を本格化。16年にカクバリズムからアルバム『CALL』をリリースし話題に。17年にはメジャー1stアルバム『20/20』をポニーキャニオンから発表した。スカート名義での活動のほか、川本真琴、スピッツ、yes, mama ok?、ムーンライダーズのライブやレコーディングにも参加。また、藤井隆、Kaede(Negicco)、三浦透子、adieu(上白石萌歌)らへの楽曲提供や劇伴制作にも携わっている。2022年11月30日に新しいアルバム『SONGS』をリリースした。
https://skirtskirtskirt.com/

Column

スカート澤部渡のカルチャーエッセイ アンダーカレントを訪ねて

シンガーソングライターであり、数々の楽曲提供やアニメ、映画などの劇伴にも携わっているポップバンド、スカートを主宰している澤部渡さん。ディープな音楽ファンであり、漫画、お笑いなど、さまざまなカルチャーを大きな愛で深掘りしている澤部さんのカルチャーエッセイが今回からスタートします。連載第1回は新譜『SONGS』にまつわる、現在と過去を行き来して「僕のセンチメンタル」を探すお話です。

2023.05.03(水)
文=澤部 渡
イラスト=トマトスープ