ハフポスト日本版のインタビューに答える北野拓プロデューサーの言葉は、沖縄出身の俳優に作品のメッセージを背負わせることの危険さをよく理解するが故の発言だろう。

「沖縄を舞台にした映画の役のお話は来たことがある。でも、全部、米兵さんに悪いことをされる役で、4回くらい呼ばれて……」

 2019年、都内の映画イベントで満島ひかりがそう語ったことは多くのメディアに報道され今も記事が残る。

 

「私のおじいさんが米兵さんで、それが理由で『できない』と言って。4回とも沖縄の役がそれしかきたことがなくて複雑。『おじいさんが米兵さんなんです』と伝えると『あっ…』と」(オリコンニュース2019.2.24)。沖縄出身のダンスボーカルグループからずば抜けた演技力でトップ俳優の1人となった満島ひかりのそうした背景と思いは、あまり知られることがない。

沖縄出身俳優たちの抱える思いや事情

「基地問題を扱う作品に出ると、あなたはどっちなんだ?と沖縄の人だけが立場を明確にすることを求められるのだろうと思う。そんな単純な問題ではないことを本土の人は知らない。個人がそう思っていても家族が基地で働いている場合もある。そこの複雑さがわからないのに、賛成、反対で二分したり、より断絶させようとしたり、『単純化』という雑な議論ではこういうことがあるのがなかなか伝わらない」

 脚本家の野木亜紀子は『フェンス』をめぐる琉球新報のインタビューでそう語る。満島ひかりに限らず、沖縄出身の俳優たちの抱える思いや事情は一律にまとめることができない。

 米国にルーツを持つモデルや俳優は芸能界に多く、沖縄に対する本土の目を「アメリカに一番近い島」として差別から憧れに変えてきたのも彼らだ。だが『フェンス』では沖縄内でのアメラジアンに対する壁、基地反対運動がミックスルーツのアイデンティティに突き刺さる現実も描く。

「ドラマは作り方によっては安易に人の感情を操作したり、プロパガンダにもなり得る可能性があるとも考えています」

2023.04.09(日)
文=CDB