「事件はあったんです、本当に」松岡茉優演じる主人公が食い下がるように叫ぶその言葉は、たとえ基地問題が一朝一夕に解決できず、沖縄県民の思いがそれぞれに違うとしても、「問題が存在しない」ことにはさせない、嘲笑して忘れ去ることだけは許さないという作り手のメッセージのように響く。
主演の1人である松岡茉優は、まるで傷ついた獣が罠の中でもがくように、東京から来た女性ライター小松綺絵・キーを演じる。『勝手にふるえてろ』『劇場』『騙し絵の牙』などで見せる松岡茉優の演技は、曖昧に微笑む女性の顔の皮膚の下に蠢く怒りを表現する、その複雑さと重層性の表現に底力を見せてきた。
その彼女が『フェンス』でかつてないほど明白に眉間に皺を寄せ、不機嫌な唸り声のように低いトーンの発声を見せるのは、視聴者の反発を共演の宮本エリアナたちが演じる沖縄住民に向けないため、問題提起の痛みをナイチャー(本土住民)の間に引き受けようとしているように見える。
ずば抜けて言語化能力が高くエッセイの連載も持つ松岡茉優は、ドラマの中だけではなく、『フェンス』の記者会見などのメディア対応でも率先して「これは沖縄の問題ではなく日本の問題」という作中のセリフを引用してインタビューに答える。
それに答えるのはブラックミックスの宮本エリアナや沖縄出身俳優ではなく自分でなくてはならない、火中の栗を拾わせてはならない、というように、松岡茉優は彼女の抜きん出た武器である強い意志と高い能力を駆使して、怒りの演技をコントロールしている。
新垣結衣が17歳のときに書いていたこと
SNS世論を飲み込もうとする巨大な単純化の波と、それに抵抗するかのように語られる矛盾と複雑さについての物語。その中に新垣結衣は第3話から、性犯罪被害者をケアする医師の役で出演するという。役名の「城間薫」の姓は、沖縄にルーツがあるとされる名字だ。どのような役割を果たすのか、現時点で制作サイドから明かされている情報は少ない。
2023.04.09(日)
文=CDB