時代は変化した。中国だって資本主義化するし、米中関係は進展するだろう。アメリカだって冷戦の終わった東アジアからは経費削減で引き上げたいのさ、という2009年の楽観論は、もう2023年のどこにもない。
世界はウクライナへのロシア侵攻や、東アジアの政変の予兆に怯えており、そこでは東アジアの米軍事力、つまりは沖縄米軍基地と自衛隊が鍵を握ることになる。支持率一桁に低迷する野党に再び「県外移設」を掲げて政権交代を狙える空気はまったくない。
変化したのは政治だけではない。去年の秋のことだ。「座り込み抗議が誰も居なかったので、0日にした方がよくない?」インフルエンサーが無人の抗議拠点の立て看板の前で笑顔で記念写真を撮るツイートが拡散された。
何年も続く抗議の疲れ、高齢の参加者たちの体力の衰え、そうした現実の穴を突くように投稿されたツイートは、3万リツイート、27万いいねという巨大なバズを引き起こした。その数字に引き寄せられるように、右派論客たちが次々と辺野古を訪れ無人の抗議拠点で嘲笑うように写真を撮り、それがまた拡散を生んだ。
それは野木亜紀子や宮藤官九郎、SNSで強く支持される脚本家たちのドラマに対する感想をはるかに超える、大衆の無意識がうねる津波のように見えた。
SNSのバズの背後には、常に「世界が自分たちに都合のいいものであってほしい」という大衆の欲望が怪物のように潜んでいる。沖縄に問題なんか本当は存在しない、若者たちは米兵と楽しく遊び、反対してるのは中国やロシアが糸を引いた高齢の怪しい活動家たちだけなのさ、そうした心地よく単純なストーリーへの圧倒的な渇望が27万の「いいね」の背後にはある。
作中のセリフを引用し、率先してインタビューに答える松岡茉優
『フェンス』の脚本が書かれ、撮影が行われたのは去年の秋よりも前のことかもしれない。だが結果的に、このドラマは今の日本のSNSで最も大きな波、「沖縄に問題なんて存在しない」という欲望に真正面から立ち向かうことになる。
2023.04.09(日)
文=CDB