だから、不動産関係の英単語をものすごく勉強しました。語学学校はエンパイア・ステート・ビルのなかにあって、ボーカルレッスンの学校はブロードウェイにあったので、結局パークアベニューに部屋を借りました。

――目的だったボーカルレッスンのほうはどうでしたか?

平野 それが、渡米前に頼りにしていた方とまったく連絡が取れなくなってしまい……。だから、現地で学校探しからはじめました。コンコンってノックして「入れてください」って(笑)。結果的に、すごく得るものがあっていいレッスンを積めたんですけど、それまでがたいへんでした。

「日本ではスマホに緊急地震速報が入りますけど、当時のニューヨークではテロ警戒のアラートがよく出ていて…」

――先ほど大統領選挙の話がありましたが、その頃のニューヨークはどんな感じでしたか?

平野 日本ではスマホに緊急地震速報が入りますけど、当時のニューヨークではテロ警戒のアラートがよく出ていました。「いまこの電車に乗っちゃダメですよ」とか。それで同じクラスのサウジ系の子たちから「ごめん、今日学校行けなくなっちゃった」とか連絡が入るんです。

 

――それはメンタルが鍛えられますね。

平野 歌や語学の面で学ぶことは多かったんですけど、精神的にもだいぶ鍛えられました。

――精神的に変わったと思うところは?

平野 他人との距離の取り方が変わったように思います。“自分の居方”というんでしょうかね? 「まあ、私は私だしな」と気負いなく思えるようになったので、仕事の現場でも気が楽になりました。そこは大きな変化ですね。

「うちのママ、すっごく可愛いんですよ」

〈幼少期に育ったニューヨークで様々な経験を重ねた平野。その後も毎年現地に足を運んでいるという。2019年には、ともに病床の父を支えた家族である母とも旅行で訪れている。しかしその時、事件が……〉

――お母様とはどんな関係ですか?

平野 うちのママ、すっごく可愛いんですよ。純粋で嘘がないし、いいことも悪いことも、すごく素直な意見を言ってくれる人です。姉妹とか友達みたいな感覚……というか、ときどき私のほうが母なんじゃないかと思います(笑)。

2023.04.08(土)
文=加山竜司