一穂 あります。ネタとして入れ込んでいる時もありますし、タイムカプセルみたいに「この時は、これを食べていた」という、日記的になっている部分もあります。自分にしか分からないけど。
川上 そう、あまり大筋とは関係ないところで出てきたりするんだけど、あとから振り返ってみると実は大筋にも関係していたりするんです。だから不思議だよね。
あとね、これも今日どうしても言いたかった。『光のとこにいてね』ってタイトル、すごくいいけど、覚えにくいですよね。日本人は五七五のリズムが染みついているのに、これは七三なんです。でも、この不安定さが、主人公二人の不安定さと響き合っていて、すごくいいタイトルだと思った。
一穂 よく『光のところにいてね』って言われます(笑)。「とこ」じゃなくて「ところ」って。
川上 「とこ」、絶妙でした。
一穂さんは読者がどう読んでくれるかということは気になりますか?
一穂 気にならないと言ったら噓になりますけど、だからといってもう上梓しちゃった本だし、どうにかできるものでもないので……。
川上 そうだよね、もう出ちゃったものはなにかあっても「ごめん、ごめん」だよね(笑)。
昔ね、筒井康隆さんが「小説家はいい加減じゃないと」って言っておられて、書き続ける秘訣はそれかなと思います。真面目すぎちゃうと苦しいですよね。自分のすべてを注ぎ込んで書く、だとずっとはできないかも。
一穂 私は単純に発注があるので納品している、その繰り返しという気持ちです。出したもののクオリティが低いと判断されれば次の依頼は来なくなりますけど、幸いいまは続けていけてる。
川上 あ、それ、わかる気がします。私も職人的な気持ちでやっています。で、一冊書くと筋肉がついたなって思う。筋肉がつくと、その筋肉を使ってまた次の小説ができて。一穂さんは、そんな感覚はありましたか?
一穂 筋肉がついたな、というのは思いました。別の作品のゲラを直す時に、『光のとこにいてね』を書く前は見逃していただろうなというところに気づいて赤を入れられるようになった、ということもありました。ただ、書き続けないとすぐに筋肉は落ちちゃうので、発注してもらわないと(笑)。
2023.04.07(金)