佐野 そうそう。2020年2月からもともと3カ月行く予定が、コロナで1カ月半で帰ってくるっていう。

ひらりさ 仕事を辞めて、次の職場へうつる合間に短期留学するというお話で。そのときに私がお酒の勢いで、留学のことのみならず、やはり新刊に書いたような個人的な人間関係や仕事の悩みもダーッとしゃべるみたいな感じになって……。

佐野 そこからお互いに友人関係の相談をしたり、だんだんと深い話をするようになった感じですね。ドラマ『エルピス』(2022年10月~12月放送)をやったときに、セクハラ、パワハラ発言のセリフについて、ちょっと悩んでいたんです。岡部たかしさんが演じた村井喬一という『フライデーボンボン』チーフ・プロデューサーのキャラクター造形について、脚本家の渡辺あやさんとのあいだでずいぶんやり取りがありました。

 もともと『エルピス』の台本は、2018年にオンエアしようと考えて2017年にできたものです。ただそれからもう5年が経っていて、いま放送するにあたり、とにかく口が悪く、同じ番組で働く人たちの仕事ぶりに暴言を連発する村井の造形はそのままでいいのか、という不安があった。こういうことの専門家って誰なんだろうと。たとえば警察ドラマをやるときは警察監修に入ってもらうように、留学先でフェミニズムやメディア論を学んでいるりささんに台本を読んでもらおうと思い立って、フィードバックをもらったという経緯ですね。

 

ひらりさ 専門家というわけではないので私がお引き受けしていいのか悩んだのですが……。自分が編集者やライター、10年以上Twitterをやっているのもあり、同世代の女性たちとコンテンツについて議論を交わす機会は多い。そこで培ってきた感覚と、大学院で学んできたことを組み合わせることで、別の視点をもたらすことはできるのかなという気持ちで引き受けました。半分まで完成している台本を読ませていただいて。

 具体的にどの言葉がどう、というよりは、ハラスメントを受けたり受ける可能性のある人が実写映像を見たときの恐怖感を意識して、撮影時にこんなふうにするといいのではないかと、メールでコメントをお返ししました。でも読んだ限り、その時点で本当に綿密に議論が重ねられたんだろうなと感じられました。ドラマの制作とは0.001ミリの調整を最後まで続けるような作業なのだなと。

2023.03.28(火)
文=ひらりさ、佐野亜裕美
撮影=平松市聖/文藝春秋